第221話 すごいですねぇ……
正人が『転移』のスキルで移動した後、すぐに里香は動き出した。
村の中に入るとあえて姿を見せ、歩いていると、近くに居るゴブリンが襲ってきたので斬り捨てた。
「グギャッ!」
汚い悲鳴を上げて絶命し、声を聞いた他のゴブリンが里香の存在に気づく。
「ギャギャギャッ!」
「ギャッ!」
新しい女を見つけて喜び、涎を垂らしながら周囲にいるゴブリンは鉈を振り上げて走る。仲間が死んでいるというのに警戒している様子はない。
支配スキルは風華が近くにいないと細かい命令が下せないため、本能のおもくまま動いているのだ。
――剣術。
スキルを発動させると、里香が持つアダマンタイトの片手剣が淡く光る。錆の浮いた鉈ごとゴブリンの体を両断する。スキルの効果によって鋭さは向上しているため、抵抗感は感じない。豆腐を切るような感覚だった。
レベル三にもなった里香は体力も大きく向上している。オリンピック選手は軽く凌駕しているため、剣を振るうぐらいでは疲れを感じない。
これなら、何時間でも戦い続けられる。
集まってきた数十のゴブリンを斬り捨てても息切れ一つしていなかった。
「いやぁ。すごいですねぇ……」
カメラを回しながら戦いを撮影している影倉は、感嘆の声を上げる。
モンスターが占拠している村だというのに不安は感じていない。返り血一つ付かずにゴブリンを倒して涼しい顔をしている里香は、映像映えすると感じながら記録をとり続ける。
「ブオォオオオオ!」
低いうなり声が聞こえると地面が揺れる。
侵入者を発見したトロールが走ってきたのだ。
猪のような勢いを感じる。
――エネルギーボルト。
周囲に光の矢を数本浮かべると放ち、トロールの膝に突き刺さると転倒してしまった。再生しながら立ち上がろうとして両手を地面についているところで、里香は背中に飛び乗った。
片手剣を一度だけ振るう。
トロールの首が切断され、ぼとりと落ちた。
高い再生力を持っていても即死してしまえば意味をなさない。
切断面から血を吹き出しながら、力が抜けて他完全に倒れてしまう。
襲いかかろうとしていた他のモンスターが立ち止まる。ようやく自分たちでは勝てない相手だと察したのだ。そんな中、杖を持つゴブリンが一歩前に出る。
ゴブリンマジシャンだ。遠距離系のスキルを複数覚えている強敵で、知能も高く、指揮能力もある。
「ギャギャ! ギャギャッ!!」
人間には理解できない言葉を発すると、トロールが走り出した。真後ろに移動したゴブリンが後に続く。
トロールを盾にした突撃作戦だ。
単純ではあるが意外と効果的ではある。レベル二の探索者が数人いても勝てないかもしれない。
だが里香は、その程度では負けることはない。十歩の距離を一瞬で詰めると跳躍。トロールとの顔と同じ高さにまで上昇すると、頭を蹴ってさらに前へ行く。移動先はゴブリンマジシャンだ。
地面を削りながら着地すると、『エネルギーボルト』を放つ。
まさか前衛を無視して攻めてくるとは思っていなかったため、迎撃の準備はできていない。光の矢に頭を貫かれ、ゴブリンマジシャンは仰向けに倒れた。
すぐさま里香は振り返り、敵を見失って足を止めているモンスターに向かって走り出す。ゴブリンは背中から斬られて絶命し、トロールは頭蓋骨ごと頭を両断されて倒れた。
圧倒的である。
負けるイメージが湧かない。
探索協会が切り札として派遣する理由が分かった。
「村の中心に行きましょう」
圧倒的な強さを見た後では反対などできない。影倉は大人しく里香の背中を追う。
モンスターの死体は全ての残っているため、血の臭いを嗅ぎつけてグリーンウルフが近寄ってきた。
「グルルルッ」
うなり声を上げている隙に近寄って斬り捨てる。警戒はしていたが目で動きが追えず、グリーンウルフは次々と倒れていく。風のように疾走する里香を止められる存在はいない。
移動中に何度もモンスターが襲ってきたが、まともに攻撃を与えられるモンスターはいなかった。
村の中心に作られた広場へ着くと、風華と炎の精霊が待ち構えていた。
騒ぎに気づき、教祖の家から慌てて駆けつけたのだ。
「私の可愛いモンスターを殺し回る不届き者め!」
情をかわし合ったモンスターを殺され、風華は激怒していた。
人ではなくモンスターに強い愛情をいただいている彼女にとって、里香の行動は許しがたい。
「村の住民や探索者を殺してきた人と話し合うつもりはありません。抵抗せずに投降するのであれば命だけは助けます」
「私の男を殺した女に負けを認めると思った? この命が尽きるまで戦うに決まっているじゃないっ!」
支配のスキルで命令を下すと、家に隠れていたグリーンウルフが一斉に飛びかかる。狙いは影倉だ。
――エネルギーボルト。
守るために光の矢を放つ。狙い通りに刺さり、絶命した。
この一瞬を狙って炎の精霊がスキルを使う。
――ファイヤーストーム。
避けることはできず、里香は炎に包まれる。全身の肌が焼けてしまい激しい痛みを感じていた。
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