第202話色々と話を聞いたぜ

 学年が違うのでヒナタと冷夏は同じ教室には居なかった。その代わり普段は顔を背けているクラスメイトの視線が痛い。烈火に集中しているのだ。


 原因は言うまでもないだろう。校門付近での騒動が学校内に広がっているのだ。しかも正人の弟という事実もバレてしまい、今までと違って良い意味で注目度は急上昇中である。


 烈火の前の席に座る葵にも注目している人たちがいる。気まずい関係になった友人達が声をかけるか悩んでいるのだ。モンスターから見捨てたことを謝りたいのではない。身勝手な考えだとわかりつつも、葵を経由して烈火そして冷夏たちと仲良くなりたいという想いの方が生まれているのだ。


 授業中はお互いの出方を見ているのか誰も話しかけない状況が続き、ついに昼休みに入ってしまう。


「よう。色々と話を聞いたぜ」


 三時間目から登校した隣の席にいる高田が、菓子パンを食べている烈火に声をかけた。にやにやと笑っていて楽しそうである。


「何の話だよ」


 からかわれるのが分かっているため、腕を組みながら眉を釣り上げ、不機嫌そうに返事をした。烈火とは仲の良い高田は、それが虚勢だというのを知っている。


 外敵から身を守るために動物が威嚇しているのと同じで、内心は怯えているのだ。接し方さえ間違えなければすぐに警戒は解ける。


「彼女ができたんだろ?」

「はぁーーーー??」


 高田に予想していなかったことを言われ、ぽかんと口を大きく開いた。不機嫌そうな顔は吹き飛んでいる。


 ゆっくりとだが烈火の顔は赤くなっていき、じわりと汗が浮き出た。


 照れているのだ。


 彼女という、夢にまでみた特別な人がいるといった噂に。


「ヒナタさんと冷夏さん、どっちが本命なんだ?」

「いやいや! 本命とか、そういうのないって!!」

「あんだけ仲が良いのにか? 親友の俺に嘘なんてつかなくていいぞ」


 誰が親友だ! と心の中で突っ込むとクラスメイトの異変に気づく。お弁当を食べながら聞き耳を立てているのだ。烈火は言葉に詰まってしまう。


 双子の迷惑になってしまうので、下手なことは言えないのだ。


「なぁ、葵も気になるよな?」

「え? 私??」


 一人でお弁当を食べていた葵が驚きの声を上げながら振り返った。口には卵焼きがある。


「美味そうじゃねーか。せっかくだから一緒に食おうぜ」


 三人で食べられるよう高田が勝手に机を移動させた。葵は弁当箱を手に持って避難させながら、抵抗せずに様子を見るだけ。烈火と一緒に食事ができるので嬉しく思っているのだ。強引な方法ではあったがちょっとだけ高田に感謝していた。


「俺は一人で……」

「そーいうなって。ほら、唐揚げ揚げるからさ」


 高田はお弁当には白米の他、キャベツ、ウィンナー、唐揚げ、プチトマトなどが入っていた。全て手作りである。


 その中にある唐揚げを一つ箸で持つと、烈火の口に無理やりねじ込んだ。


「ねーちゃんが作ったのか?」

「菓子パンは体に悪いとかいってな」


 弟の健康を気にする姉と正人が似ているように感じ、烈火は心が温かくなるように感じた。


「葵は親が作ってんのか?」

「ううん。お母さんたちは夜遅くまで働いているから私が作ってる」

「えらっ! すげーじゃん」


 机を囲って食べているのに話題に入れなかった葵に気を使って、高田が話題を振り、大きめなリアクションをする。こういた細かい気づかいは春に似ているが、口と態度の悪さが全てを台無しにしていた。もっと穏やかな言動をすれば人気が出るのに。ふりかけの付いた白米を食べながら、葵はそんなことを考えていた。


「普通だよ」

「いや、俺なんてできないし。烈火もだよな?」

「まーな。料理なんてしたことねぇ」

「だろ!……って、そうじゃない!」


 大分話題が脱線してしまった。料理ができる、できないなんてどうでも良い。今聞きたいことはヒナタと冷夏の関係だ。


「どっちが本命なのかいえよ!」

「だから、そんなんじゃねぇって! 探索者になったから鍛えてもらっているだけだって」


 騒がしい教室が静かになった。


「え? 俺なんか変なこと言ったのか?」


 目の前に居る高田がぷるぷると肩をふるわせている。反応はない。困った烈火は葵を見る。


「探索者になるのはわかるけど、あの二人に教えてもらえるなんてすごいね。羨ましいよ」

「そうか? ヒナタさんはちょいアホだし、冷夏さんは怖い人だからキツいだけだぞ」


 訓練を思い出しながら実感のこもった声で言った。


「お前それ、自慢だぞ。すげー仲いいじゃん」


 恨むような目をしながら高田は言っているが、烈火はそれどころじゃない。彼の後ろに、腕を組んでいる冷夏とヒナタが立っていたからだ。


「誰がキツいって?」

「へー、烈火君ってヒナタのこと、そんな感じに思っていたんだね」


 レベル三が発する圧に全員が緊張している。誰も動けない。


 双子は左右に分かれると烈火の腕を持つ。


「これはだな。ちょとした……」

「言い訳は後で聞きくねーー」

「正人さんから、学校での生活態度も見てくれとお願いされています。しっかりと教育してあげますからね」

「ははは……」


 言い訳を聞いてもらえなさそうだ。諦めの付いた烈火は乾いた笑いをするだけである。


 菓子パンを置き去りにして理科室まで連れて行かれることになった。

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