第201話いいいいっしょにだとッ!?
何とかしてヒナタを引き離した烈火は、うんざいりとした表情で二人に聞く。
「なんで二人とも転校したんだ?」
偏差値の低い高校に、とまでは言えなかった。校門の前に体育教師がいるからだ。評判をさらに下げないために無駄な努力をしたのである。
「安全のため、かな」
「正人の兄貴から指示があったのか」
「ううん。私とヒナタから志願したんだよ」
不審者に襲われた夜、冷夏は今後についてヒナタと緊急会議を開いていた。狙われている自分たちが普通に生活をして良いのかと。
すでに探索者として実力を付けていて将来に不安はない。高校を中退して里香のようにと生きていった方が、周囲にいる人たちの安全は守れるかも。そんなことを考えていたのだ。
二人だけでは答えが出ず、最後は正人に相談したところ。「真のターゲットは春や烈火かもしれない」と言われ、不審者の狙いがあの場にいる全員だった可能性に気づく。まとめて殺すつもりだったのであれば、あの人数を引き連れていた理由にもなるし、意外とあっているかもと双子は思う。
その後、また二人だけで話し合い、まとまって行動した方が良いと結論が出て転校が決まったのだ。
もちろん、ことをスムーズに進めるために探索協会の力を借りたのは言うまでもない。女子高生探索者として宣伝に協力してきたこともあって、すんなりと協力してもらえた。
「ちッ。あの男どもか」
何も出来ず女性に守られてしまったことを思い出し、烈火は不機嫌そうな顔になった。
「だから、これからは一緒に登校しようか」
「いいいいっしょにだとッ!?」
「何を考えてるの……」
慌てている姿をみて冷夏は目を細めながら、女慣れしていない烈火を見ている。一緒に登校するだけで、どうしてここまで恥ずかしがるのだろうか。帰りがけに告白されるんじゃないかと勘違いしているのであれば、早めに芽を摘む必要がある。あなたなんて興味ありませんと、宣告するべきかもしれないなどと考えいた。
「いや何って、そりゃぁ、なぁ?」
「聞かれてもヒナタはわからないよー。何考えているの!?」
「いや、それは……」
まさか女生徒一緒に登校できるだけで嬉しいなんて、口が裂けても言えない。
言い返せないので烈火はクルリと回って背を向けると校門に向けて歩き出す。後ろからは「ねー、ねー」としつこく聞いてくるヒナタと、黙っている冷夏が付いてくる。
そんな姿をクラスメイトや教師は遠巻きに見ているだけだったのだが、一人だけ違った。親しげに話しかけてくる。
「烈火君、おはよー!」
「おう。葵じゃないか」
八咫烏の事件から仲良くなった葵は、顔を見かければ挨拶をし、昼は一緒に弁当を食べる関係になっていた。
別に恋愛感情があると言うわけではない。自分を見捨てて逃げてしまった友人たちとの人間関係がぎくしゃくしてしまい、助けてくれた烈火との関わりが増えただけであるが、またこれが他人を遠ざける結果となる。
有名な探索者正人の弟を狙っていた人たちに抜け駆けされたと思われたのだ。クラスでは烈火とその仲間以外からは、無視されてしまっている。
「他の女の子と一緒に居るなんて珍しいね」
「まぁな」
葵が烈火の後ろにいる二人を見た。その瞬間、目を大きく開く。
「え、あの二人って冷夏さんと、ヒナタさんじゃないっ!! どうして仲が良いの!?」
思わず烈火のブレザーを引っ張ってしまうほど、驚いていた。年齢がさほど変わらないのに強くて美しいと評判で、特に女子高生を中心に人気を高めている二人と出会えて興奮しているのだ。もちろん里香も人気は高いのだが、現役女子高生の肩書きを持つ冷夏とヒナタよりやや劣るといった感じである。
「正人の兄貴と知り合いで」
「知り合いだから、同じ高校に通うようになったの!? もっと詳しく説明してっ!」
珍しく葵は冷静さを欠いている。女難の日だなと思いながら烈火は助けを求めるようにしてヒナタを一瞬だけ見たが、頼りにならないだろうと判断して視線は冷夏にどうした。
「ここの高校って制服可愛いですよね」
「ふへっ!?」
憧れの人に話しかけられて葵は変な声を出してしまった。顔が真っ赤になるほど恥ずかしいと感じてしまい、慌てて烈火の大きな背中に隠れる。
「逃げるなんて小動物みたいで可愛い!!」
捕まえようとしてヒナタが近づくと、葵は逃げるために離れる。さらにヒナタが追うと、烈火の体を中心にしてグルグルと回ることになった。
「おいおい!」
女性に手を出せないので止められない。助けを求めて冷夏を見る。
「私は助けません。烈火君、頑張って」
半笑いで言われてしまった。頑張ってもできないものはできないのだ。
登校中の生徒の視線は集まるし、人は増えていく。遠巻きに不良仲間達も指さしながら笑っていて、後でからかわれてしまうのは確定だ。
「おまえらーーー! 何している!!」
騒動に気づいた教師が近づいてくる。
「わー! 先生だ! 逃げろーーっ!」
「え、ええ!」
ヒナタはパッと葵の手を取ると校舎に向かっては走り出した。
「ほら、烈火君も行くよ」
ポンと背中を叩いてから冷夏も後に続く。残された烈火は背中に心地よい痛みを感じつつ、三人の姿を見送っていた。
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