第198話天誅ーーーーーッ!!
街灯に照らされて、不審者がゆっくりと歩いてくる。ようやく春、烈火も気づいて武器を抜いた。
「これ以上は近づかないで下さい!」
里香は叫んだが不審者は止まらない。よく見ると靴が濡れているように見える。斧からも血がしたたり落ちているので、一仕事終えた後だというのがわかった。
「その提案は断りましょうか。あ、逃げるならどうぞ。追いかけるので」
話が通じないと、五人は即座に理解した。
「里香はどうする?」
「ワタシが戦うから、二人は皆を守って」
冷夏とヒナタは小さく頷くと後ろに下がる。
敵が目の前にいる不審者だけとは限らない。仲間がいる可能性を考えて一人で戦うと宣言したのだ。
スキルを使って身を隠している可能性もあるため、油断できる状況ではなかった。
「最初の獲物は君ですか。若い女とは! 私は運がイイッ!!」
不審者が急に走り出した。普通の人間ができる動きではない。少なくてもレベルは二、さらにスキルまで使っているように感じる。モンスターが地上に現れても、緊急時を除きダンジョン外でスキルを使うことは認められていない。
誰もが知っている基本的なルールを破るのであれば、やはりまともな人間とは思えないだろう。
――エネルギーボルト。
里香が光の矢を放つと、不審者は両手に持つ斧で叩き落とす。あの武器も普通ではない。モンスター由来もしくはダンジョンから手に入った鉱石から作られたのだ。
不審者が跳躍をした。スキルによって斧が淡く光っている。
――剣術。
スキルを使って接近戦の準備に入った里香は横に飛ぶと、不審者は斧をコンクリートの地面に叩きつけて陥没させた。
「なに、この威力……」
驚きの声を上げたのは冷夏だ。『斧術』で威力を上げたとしても、これほどの破壊はできない。特別なスキルを持っていると察した。
着地して動きが止まった一瞬を狙い、里香が近づき、剣を突き出す。生かして捕まえようなんて甘い考えはしていない。頭を狙っている。
――土壁。
コンクリートの地面がせり上がり、切っ先が衝突した。
不審者がスキルを使って身を守ったのだ。
「いやぁ。さすが有名な女子高生。強い、強い」
ケタケタと不快な笑いをしながら不審者が立ち上がる。土の壁はボロボロと崩れて二人を遮るものはない。
「そろそろ見学者も巻き込みましょうかねぇ!」
不審者が右腕を上げると、仮面を着けた男が五名、暗闇の中から出現した。探索者になりたての二人に近づかせないよう、冷夏とヒナタは走って突っ込んでいく。お互いにスキルを使う激しい戦闘が始まった。
「どうしてワタシたちを狙うんですかっ!!」
「案外おバカなんですね。邪魔だからに決まってるじゃないですか。他に何かあると思ったんですか?」
笑いながら不審者が斧を振るう。先ほどの攻撃力を考えると剣で受けるのは危険だ。里香は後ろに下がりながら紙一重で避けていく。攻撃は完全に見切っていて当たることはない。
それでも不審者は攻撃を止めることはない。反撃なんて気にせず、全力で斧を振るっているのだ。
何度目か分からないほど斧を振るった後、疲れによって体勢を僅かに崩してしまい、不審者の体が流れた。隙を見つけた里香は剣を突き出して右腕を刺す。だが、なにも感じていないようで、すぐに攻撃を再開されてしまう。
斧を振るう動きが鈍っている。痛みに強いだけで、ダメージは与えられていると分かった里香は、足、腹、胸を連続して突く。内臓まで到達した手応えはあったのだが、不審者の攻撃は止まらない。
「その程度の攻撃、私には効きませんねッ!!」
不審者が斧を振り上げた。また里香は後ろに下がろうとするが、背中から小さい衝撃を受けて止まってしまった。『土壁』によって背後を塞がられてしまい、逃げ道はない。
「天誅ーーーーーッ!!」
斧が頭上に迫る。里香は冷静に動き、剣で受け流そうとする。お互いの刃が接触した瞬間、強い衝撃を感じ吹き飛ばされてしまった。
「がはっ」
背後の土壁に当たり空気を吐き出してしまう。
頭をぶつけて目がチカチカとする。
持っている剣を見ると刀身は欠けておらず、無事だった。正人と同じアダマンタイト製の武器にして良かったと、里香は心底思う。
衝撃によって不審者も数歩下がっていて距離はできているが、安心などできない。
不審者が左手に持った斧を投げてきた。クルクルと回転しながら近づく。
狙いは胸だ。
先ほどのように剣で接触してしまえば、強い衝撃を受けて動きは止まってしまうかもしれない。里香は避けようとする。
――土壁。
動き出す直前、左右にコンクリートの壁が出現した。移動先がなくなる。唯一、空いている場所は前方で斧が近づいていた。
「はぁああああ!」
気合いの声を上げながら全力で剣を振り上げる。斧に当たると上空へ弾き飛ばした。予想していた衝撃はいっさいない。
罠だ、と気づいたときには遅かった。不審者の姿が見えない。
「きゃぁっ!!」
冷夏の悲鳴が聞こえた。自分を放置してターゲットを変えたのかもしれない。里香は焦る気持ちを抑えつつ、跳躍し、土壁を蹴って包囲から脱出する。
左腕が半分ほど切断されている冷夏の姿が見えた。
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