第76話どうしてこうなった?
竹富島で海を堪能した正人たちは、早めに帰りの船に乗ってホテルに戻る。
女性陣は体がべたつくとの理由で、すぐに広いバスルームに入ると、夕日を眺めながら体についた塩を落としていく。しっかりと日焼け止めを塗っていたのだが、それでも水着の跡がうっすらと残っていて、同級生が見れば目が離せなくなるような健康的な魅力がある。
それを正人が独り占めしているのだから、その事実を知ったら悔しがる男子高校生は多いだろう。少なくとも、烈火は涙でマクラを濡らすことになるのは間違いない。
たっぷりと時間をかけて風呂から上がった三人は、色違いのキャミソールとタンクトップというラフ服装に着替えてリビングに入る。
ホテルからオススメされたシャンパンを飲んでいた正人は、そんな魅力的な三人の姿を見てしまい、思わず動きを止めてしまった。
「あー! ずるいー! 昨日買ったミミガージャーキー食べてるー!」
ヒナタが駆け寄ると、正人からおつまみを強奪する。
細長いミミガーをまとめて取り出すと一気に口に入れた。
さらに数本取り出すと、里香と冷夏にも渡す。
「おいひぃよー!」
二人は食べていいのかわからず、正人の顔を見た。
「いっぱい買ったから気にしないでいいよ」
「だってー! よかったねー!」
笑顔で許可を出すと、ようやくヒナタからミミガージャーキーを受け取る。
独特な濃い味には慣れないが、食感が良いのでクセになってしまいそうだった。
「よかったねー! じゃないの! ちゃんと許可をとってから食べなさい!」
「わー! 冷夏が怒ったー! 里香ちゃん助けてー!」
「これはヒナタちゃんが悪いよ? 一緒に謝ろうか」
手をつないで、里香に引きづられるようにしてきたヒナタが、勝手に食べたことを謝罪する。正人は笑って許すと、お土産用として買ったお菓子をバッグから取り出し、テーブルの上に置いていた。
「また買えば良いんだから気にしないで、好きに食べていいよ」
「やったー!!」
大喜びするヒナタは甘いお菓子を中心につかんでいくと、両腕で抱えながら冷夏の方へ戻ってしまった。
「お酒を飲みすぎちゃったから、少し寝るね」
テーブルには空いたシャンパンの瓶が2つ。他にもジュースのように見える果実酒の瓶が何本も置かれていた。そのうちの一本は開封済みだ。
初めて経験する高級なお酒を飲みすぎてしまい、正人はアルコールが全身に回っていた。海で遊んだ疲れもあり、今にも寝てしまいそうなほど眠い。頭をフラフラとさせていた。
壁に手をつきながらもゆっくりと歩いて部屋にまで戻ると、ベッドに倒れこむ。
すぐに意識を失って、夢の中へ旅立ってしまった。
◇ ◇ ◇
久しく感じていなかった、暖かい人の温もりとともに正人は目が覚めた。
窓からは朝日が差し込んでいて、今日も天気が良いことがわかる。けだるい体を起こすと、真っ白な掛布団を、勢いよくはがした。
「……………………え、えぇッ!?」
現実ではあり得ない光景が目の前に広がっており、正人の驚いた声が部屋中に響き渡った。
冷夏、ヒナタ、里香が同じベッドで寝ていたのだ。
里香は正人の足を抱き枕替わりに抱き着いており、ヒナタは寝相が悪くて服がめくれており、ブラジャーまで見えてしまっていた。その下には潰されそうになっている冷夏がいて、寝ながらうめき声をあげていた。
「どうしてこうなった?」
昨日は一人で寝たはずだが、朝になったら四人全員仲良く一緒に寝ていた。なぜそうなったのかわからないが、マズイ状況だというのは理解できる。逃げだそう。正人がそう判断するのに時間はかからなかった。
起こさないように足にしがみついている里香を、優しい手つきで体から離そうとする。
「もうちょっと寝かせて~。お願い~」
甘えるような声を出しながら腕に力を入れて対抗した。二つの大きな胸が正人の足を包み込む。さらに状況は悪化していく。木登りの夢を見ているのだろうか、するすると正人の体をのぼっていき、里香の顔は胸のあたりまで移動していた。
大人の女性になりかけている少女特有の甘酸っぱい匂いに、正人は男性の本能を刺激されてしまう。
(こ、これは、マズイ……静まれ!)
このままでは社会的に死んでしまう。しかも、それだけではない。冷夏やヒナタが見たら、軽蔑されてしまいパーティーが解散してしまうかもしれないのだ。
リスクばかりでメリットがほとんどない。冷静になろうと念仏を唱えるが、里香が小刻みに体を動かすので、意識がそちらに囚われてしまい、上手くいかない。
もう一度、引き離そうと試みるがピクリとも動かなかった。むろん、全力を出せばすぐにでも抜け出せはするが、起こしてしまうのでそれは避けたかった。
「ヒナタぁ~。重い~」
冷夏の声が聞こえて、正人はさらに焦る。
残された時間は少ない。それなのに里香は離さないどころか、沖縄の暑さに負けたのか、足をもぞもぞと動かしてパンツを脱ごうとしていた。
(まてまて、違う! それはダメだ! 誤解で終わらなくなる! なんでみんな寝相が悪いんだよッ!!)
助けを求めようと周囲を見ると、床には瓶がいくつも転がっていた。
(あれは……俺がテーブルに置きっぱなしにした瓶だ……もしかして、みんなアレを飲んだのか?)
それなら初めての感覚に戸惑い、寝る場所を間違えてしまうのも納得だ。
寝相の悪さや、なかなか起きないのも理解できる。
見えるところに置きっぱなしにした正人のミスであり、里香たちを責めることはできない。
そんなことを考えている間に、冷夏は目覚めかけて、里香は脱ぎかけている。
時間をかけてしまえば状況は悪くなる一方なので、正人は全力を出して抜け出すことに決めた。
「えぇ~~」
寂しそうな声を出した里香だったが、目が覚めることはなかった。
正人は安堵すると、足音を立てないようにして部屋を出ていく。無事にリビングにまでつくと大きなため息を吐いたのであった。
「もう、みんなの前でお酒を飲むのはやめよう」
今日は沖縄ダンジョンを探索する日だ。反省すると、準備に取り掛かる。
先ほど見た光景を忘れるためにも、いつも以上に集中して装備を点検するのであった。
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