第20話どっちが上なのかハッキリさせようじゃないか

 合同パーティーを組むのであれば、直接話し合う必要がある。それもできれば、顔を合わせてだ。危険を共に乗り越える仲間だからこそ、そういった場は重要である。


 誠二が話し合いの場として指定したのはファミレス。

 正人は里香と一緒に店内へ入った。


「……本当に合同パーティー組むんですか?」


「そのつもりだけど、問題ありそう? 里香さんは、彼と一緒にパーティーを組もうとしてた話も聞いていたし、大丈夫かなって思っていたんだけど」


 あのときは、里香は早急にお金を稼がないといけないと、追い詰められた末にでた行動だった。自信と余裕のある態度を崩さない誠二は、里香にとって苦手な相手ではあったが、弱っているからこそ、そういった人に、すがりたくなったのだ。どんな相手だろうが、一人で探索して人知れず死ぬよりマシ。そういった、自暴自棄に似た感情が心の中を占めていた。


 誠二は好き嫌いで言えば、やや嫌いな部類に入る。消去法で決めたことであって、積極的に関わりたいとは思っていない。だからこそ、ダンジョンショップでは冷たくあしらったのだ。


 本来であれば断りたい相手だが、言ってしまえば正人に迷惑をかけてしまうと思った里香は、合同パーティーについて本音を語ることはできず、不満を漏らすことはできなかった。


「え、あ、はい。大丈夫です……」


 気まずい空気から逃げるようにファミレス内をキョロキョロと見渡す。


「あ、見つけました! あそこの席みたいですね」


 店の最奥のソファー席に、誠二を中心に左右に女性が二人、一列に座っていた。

 向こうも里香の姿を見つけると手招きをする。


 近くまで行くと、正人、里香の順番で向かい合うような形で着席した。


「やぁ、立花さんは久々だね。学校を辞めたと聞いて驚いたよ」


 この場の主役は俺だと言わんばかりに、誠二が手を広げながら話しかけた。

 無神経な話題の選び方に内心でイラッとした里香だが、これから仲良くしなければいけない相手だと言い聞かせて、極力表に出さないようにして対応する。


「先生には前から伝えてはいたんですけどね」


「そっか、それなら仕方がないね。それで、正人君とパーティーを組んだ訳か」


 ようやくここで、正人に視線を向ける。


「あぁ、そうだ。あなたの弟がクラスメイトなので、申し訳ないけど、下の名前で呼ばせてもらいますね」


 誠二はあからさまに挑発をしていた。

 年上にたいして「君」と敬称をつけることはほとんどない。大抵は年下か、同年代、もしくは……自分より下だと見下している場合に使う。


 いきなり下の名前で呼んでいることもそうだが、視線からしても決して親しみを込めて言っているわけではないと、正人は気づいていた。


 今後の人間関係において、優位な立場を確保しておきたい。そういった考えが透けて見える。両隣に座っている女性からは悪意は感じ取れないので、誠二が一人で暴走しているのだろうと判断した。


「あぁ、構わない。その代わり、私も誠二君と呼ばせてもらうよ」


 お互いの視線が絡み合い、バチっと火花が飛ぶ。

 弱気になってしまえば主導権を握られてしまう。それは合同パーティー内で決める条件にも関わってくる。


 誠二は誰が上なのかハッキリさせたい。

 正人はあくまで平等なパートナーとしてパーティーを組みたい。

 お互いの立場を決める争いは、この瞬間から始まっていた。


「ええ、呼び方はお任せしますよ」


 にっこりと笑い受け流す誠二は、左右に侍らせている女性を交互に見る。


「初対面だと思うので彼女たちを紹介しますね。七瀬冷夏さんと、七瀬ヒナタさんです。双子の姉妹で、一緒にパーティーを組んで活動しています」


「冷夏です。よろしくお願いします。双子ですが一応、姉ということになっています」


「ヒナタだよ! よろしく!」


 冷夏は長い黒髪のストレートを腰まで伸ばしており、静かな印象を与える女性だ。一方、ヒナタの髪は短く明るい色に脱色している。言葉も軽く「元気な子供」といった表現がぴったりあう。


 同じ制服を着ていて、顔が似ている双子だが、性格や印象は正反対だった。


「初めまして。神宮正人です。隣に座る女性が立花里香さん。一緒に活動を始めてから一ヶ月ぐらいです」


「里香です。よろしくお願いします」


 二人が同時に軽く頭を下げる。

 そこで、ようやく堅苦しい挨拶が終わったと言わんばかりに、ヒナタが楽しそうな顔をしながら口を開いた。


「ねー。里香さんは高校を辞めて、探索者一本で生活しようとしてるんでしょ? すごいよねー!」


 初対面で相手のプライベートに踏み込むヒナタ。里香は表情がこわばり、それを察した冷夏が慌てて声を上げる。


「ヒナタ!」


 これから一緒にモンスターと戦うかもしれない相手なのだから、機嫌を損ねてはいけない。いや、そもそも、そういった話をしたいのであれば、時間をかけて、親しい関係になっていく必要がある。


 段階をいくつもすっ飛ばして、踏み込んだのだから怒られても仕方がない。

 ヒナタはしゅんとしてしまった。


「良いんです。気になるのは当然ですよ」


 それも一瞬だけ。里香の一言ですぐに元に戻る。

 同時に誠二も驚いたような顔をした。


「もう少しトゲトゲしていたイメージがあったけど、丸くなったね」


 探索者になりたいと言ったとき、ダンジョンショップで話しかけたとき、そのどちらも冷たく、そして孤独が故の拒絶感があったのだ。


 だが今の彼女からは、そういった雰囲気はない。

 正人が孤独から救い、本来の性格にも戻ったのだ。


「前を向いて働いていますから」


「ねーねー。それより、なんで辞めたか気になる!」


「いいですよ。少しだけ話しましょうか」


 笑顔で答えると、正人との出会いから探索やモンスターとの戦いについて語る。スケルトン戦の話になると、誠二までもが聞き入っていた。


 もちろん手に入れたスキルのことは言わないが、レベルアップのことまでは伝えている。正人の手の甲を見ればすぐに分かることだから、隠す必要がないのだ。むしろ、激戦を乗り越えてレベルが上がったことを伝えることの方がメリットは多い。


「うーん。やっぱり、覚悟が違うね」


 一通り話を聞き終えたヒナタは腕を組んでうなっていた。

 先輩の探索者に教わり、安全な探索をしていた自分たちと全く違う世界に驚き感心していた。それは冷夏も同じだ。


 だが誠二だけは違った。このままでは正人に、合同パーティーの主導権を握られてしまうと、内心で焦っていた。流れを変えるために話題を切り替える。


「お店に悪いから、そろそろ注文をしよう。僕がおごるから遠慮しなくて良いよ」


 ではといって、正人がメニュー表を開く。ちょうどお昼時なので空腹だ。注文する内容はすぐに決まった。


「里香さんは何が食べたい? 私は和風ハンバーグセットとドリンク、後は苺パフェも頼もうかな」


 遠慮のない注文に里香が正人を見る。


「気にすることはないよ。こちらは招待されたんだから、遠慮したら逆にホスト側に失礼になるよ」


 あえて客なんだと、だからもてなしてもらうのは正当な権利であると、伝えたのだ。

 里香は伺うように誠二を見る。


「その通りだ。気にしないで注文して欲しい」


「わかりました。私はミートパスタにドリンクでお願いします」


 おごる本人が良いのなら、問題ないだろうと里香は思った。

 ウェイトレスを呼ぶと、五人分の注文をして、ようやく本題に入ることとなる。

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