第21話とりあえず、一緒に頑張りましょうか

「さて、注文も終わって落ち着いたところで、本題について話しましょうか。先ずこの場にいるということは、合同パーティーを組むことにつて、問題ないと思って、良いですよね?」


 事前に烈火経由で、合同パーティーを組むことは前向きに考えていると伝えていた。

 当然、誠二の態度に違和感はないのだが、正人は子供っぽいと思いながらも、心のどこかで"気に入らない"なと、感じてしまう。


「条件次第ですね」


 思わず、普段のイメージとは違う、冷たい声を発しまう。里香は不思議そうにしているだけだが、誠二は違った。


 土壇場になって気持ちを変えたのではないかと疑いはじめ、正人と争うのではなく、また下の人間として扱うのでもない。話がまとまるまでは、対等な相手として扱おうと考え直した。


「……気にしている条件は、金額の分配ですよね」


 誠二は、真意がどこにあるのか、探るような目をししながら話を続ける。


「それについては考えがあります。総額をパーティー単位、要は折半……と、言いたいところですが、人数の多い僕たちの収入が少なくなってしまいます。ですので、五人分で割る方法でどうでしょうか?」


「問題ありません。みんなで仲良く分け合いましょう」


 正人はあっさりと受け入れた。誠二が拍子抜けするほどだ。

 だが、話はこれで終わるわけではない。むしろ、この後の方が本番だ。


「では、通常のモンスターから得た収益の話は、これで終わり。次はボスの報酬について話しましょうか」


「おお! 忘れてました! 確かにボスのドロップアイテムは別で決めないといけませんね」


 今後は正人が話を切り出すと、誠二は大げさに驚いた動作をすると同時に、内心で舌打ちをした。


 ボスは魔石の他、スキルカードや武具、素材などをドロップすることも珍しくない。換金することもあるので、条件に入れる必要はあるのだが、この話題に誠二が触れなかったのには理由があった。


 ボス討伐の貢献度などといった、曖昧な言葉で独占することを狙っていたのだ。「止めを刺したのは俺だ」などと強気に出て、すべてを手に入れようとしたのだが、そんな高校生らしい浅い考えは、実現しなかった。


「魔石は売って換金でいいですよね?」


「持っていても観賞用になるだけですから。問題はないです」


「やはり決めなければいけないのは……」


「「スキルカードや武具がドロップした場合の分配方法」」


 オーガのドロップアイテムは、怪力のスキルカードもしくは両刃の大剣だ。


 日本で探索者が最も多く入る東京ダンジョンの最初に戦うボスということもあり、これらのドロップアイテム自体は珍しくない。


 国営のオークションサイトを見れば常に1~2つぐらいは出品されている状態だが、だからといって、どうでもよいアイテムというわけにはならない。スキルカードやダンジョン産の武具は貴重で、強力なのは変わらないのだ。


「欲しい人が買い取るでどうですか」


「相場で?」


 誠二が提案し、正人が疑問をぶつける。

 ここから二人の応酬が始まった。


「相場の20%引いた額です。オークションの手数料分配は安くても問題ないですよね?」


「もし、購入希望者が二人以上いたら?」


「金額が高い方に売りましょう」


「平等に見えるかもしれませんが、そのルールだと、誠二君しか手に入らないですよね?」


「お金があることも才能の一つですよ。それに高すぎればオークションで購入した方が良い。相場より高くなることはありません。現実的なラインでは?」


「それだったら、最後は二人とも同じ金額になって、誰も買い取れないのでは?」


「同じ金額を提示したら、パーティー内での貢献度で決めましょう。もしくは多数決でも構いません」


 背もたれに体重を預けて、ややリラックスした態度をとる。


 色々と突っ込んで確認したいことはあるが、スキル昇華を手に入れた今、正当な金額さえ支払ってもらえれば、問題はない。里香が怪力のスキルを欲しいというのであれば、購入できるほどのお金は手に入るのだから。


 里香を見ても満足そうな表情をしている。

 正人はここが落としどころだろうと感じた。

 一方的に不利というわけではないので、妥協することにした。


「そうしましょう。条件は問題ありません。オーガを倒すまで、協力させてください」


 正人と誠二がお互いに握手をする。ようやくピリピリとした空気が和らいだ。


 タイミングを見計らったかのように注文していた料理が次々と運ばれてくる。ハンバーグやパスタ、ジュース、パフェなどが、テーブルいっぱいに並べられた。


 いただきますの合図とともに食事が始まると、会話の主役は一変して女性陣になる。食べ物や遊びに行く場所、好きなアイドルなど、内容はコロコロと変わり、冷夏、ヒナタ、里香の三人は楽しそうだ。


 そんな様子を眺めていた誠二が、ふと思い出したといった様子で話しかける。


「正人君は、里香とパーティーを組んで長いんですか?」


 少し踏み込んだ質問だったが、合同パーティーを組むのであれば自然な内容だ。正人は一切の疑問は持たず、返事をする。


「そこまで長くないですよ。先ほど里香さんが言ってましたが、一ヶ月程度の関係です」


 うんうんと、うなずいてから、誠二は質問を重ねる。


「レベル差があるようですけど、どういった工夫をされているので?」


 手の甲を見れば探索者のレベルは分かる。正人は二本線、他の四人は一本線だ。

 五層のボスを倒さずにレベル二に至るのは珍しく、烈火から話を聞いた当初、誠二はひどく驚いていた。


「今は戦闘のサポートに徹してもらっています。その方が効率は良いので……」


「確かに、レベルが一つ違うと動きをあわせるの大変ですからね」


 再び、うんうんと、うなずく。だが目からは僅かに蔑むような感情が漏れている。必要な情報は手に入ったため、誠二は追加で質問をすることはない。


「では、誠二君の方はどうですか?」


「先輩たちに一緒に鍛えられてきましたから。お互いの実力も近しいですし、もしかしたらクラスメイトより仲が良いかもしれないですね」


 当たり障りのない回答。この話題を続ける意思がないと察した正人は、会話を打ち切ることにした。


「良い仲間に恵まれましたね」


「ええ、本当に」


 お互いに笑顔で褒めあい、食事に集中する。


 デザートも食べ終わり、落ち着いた頃になって、ようやく探索に向けての話題になり、全員で戦闘時の役割分担、連携について全員で話し合う。


 次回は東京ダンジョンの三層、順調に進めば四層まで探索すると決まった。

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