第30話 好きなこと

 ご飯、美味しかったです。ハンバーグだったよ。

 今その味を忘れそうなぐらい苦しいけど……。


 夕飯をいただき、現時刻は九時。

 そして俺は海雪の部屋の前にいる。


 このまま家に帰ってしまおうか。

 なんて言って入ろうかな。

 そんな感じで迷ってうんうんとうなっていると。


 不意に目の前の扉が開く。

 こっちから見て押して開けるタイプの扉。


 開いた扉から、海雪が顔をひょこっと出す。


「……入って、ください」

「お、おう……」


 すっごい嫌そうな顔をしながら言われた。

 夏希パパなんでこんなことを……。

 この部屋に入っても入らなくてもダメな気がしたので入るけど。


 中に入るとなんとも簡素な部屋。

 夏希の部屋とあまり変わらないレイアウト。

 ただ海雪の部屋には物がない。


 ベッドとテレビがあるぐらいで。


「なんも、ないな」


 つい口に出してしまう。


「そうです。ですが私にはこれがあります」


 そう言い、テレビ――の隣に謎のタワー。

 文庫本サイズの大きさで、無造作に積んであり。


「それって……」

「はい。ゲームです」


 その中から色々ととりだす海雪。

 よく見るタイトルからマイナーなものまで。


「でもなんで……」

「とーさまから……聞きました」

「なにを?」

「あなたが、ゲームが好きだってことを」


 たしかに、ゲームは好きだ。

 一人でいくらでも時間を潰せるし。

 家に居たらずっとやるぐらい。


 ただ……夏希パパ、なんで知っているんだ?

 言ったっけ……いや一言も言ってない。


 まぁ今はあまり関係ないし忘れておくか。


「それで……?」


 なんでこのタイミングでそんなことを。


「私も、ゲームが好きなのです。から……」

「から……?」


 意を決したかのような海雪。

 そして――。


「いっしょに、ゲームをしませんか?」



 *



「え、ちょ、強っ」


 画面の中で、俺の動かすキャラクターが無情にも画面外へ吹っ飛ぶ。


 人気の対戦型格闘ゲーム。

 この手のゲームを俺はやったことがない。

 理由はやる相手がいないから。


 友達がいないうえに親との仲もあまりよくない。

 なのでRPGとか一人でやりこめるやつしかやったことがないのだ。


 その経験の差もあるだろう。

 けど海雪、めっちゃうまい。


「よし……五回、この部屋から吹っ飛ばすことができました」


 ゲームの中で擬似的に俺をぶっ飛ばしているらしい。

 おかげで現実の俺は無事だ。

 ゲームの中の俺が、体力満タンで復活する。


 できればリベンジをと思い、プレイ。

 しかし一瞬でほうむられる。


「海雪、なんでこんなに強いんだ?」


 不意に気になったことを俺は尋ねた。

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