第29話 マジかよ
「なんでいっしょに入っていたのですか?」
「いやあれは……」
「あんな体勢になって……私だってまだ……」
悔しそうに海雪が言う。
あの後、お風呂から出て着替えた。
そのお風呂場を出てすぐの廊下。
そこで正座をさせられ、海雪から説教を受けている。俺だけ。
夏希はすでに部屋へ戻りベッドで寝ている。
さっきの風呂場乱入で力を使い果たしたらしい。
夏希にもこの誤解を解く手伝いをしてほしかった。
「と、とにかく誤解なんだ。俺が入っていたら夏希が……」
「……」
めっちゃ疑いの目を向けられている。
誰か助けて……そう思っていると。
「海雪、そのぐらいにしときなさい」
声が。
見れば、そこには夏希パパが。
海雪とは反対側に立ち、これにて俺と海雪と夏希パパで三角形ができた。
「とーさま……いえ、とーさまのお願いでもダメです。こいつはなーさまの裸を見たんですよ!」
見てない見てない。
「それぐらい、どうってことないさ。ワタシの妻だって裸で家の中を歩くなんてしょっちゅうあっただろう?」
マジかよ。
「それとこれとは違います! こいつは部外者ですし!」
「……そろそろ、素直になってもいいんじゃないかな? 海雪?」
「……っ」
だんだんと話が家族会議的な方向に……。
どうしようと戸惑っていると。
「桜木クン。夕飯を食べた後、海雪の部屋に行くといい」
「っ!? と、とーさま、なぜ……」
その一言に動揺する海雪。
それに対し、夏希パパはニコッと微笑む。
そしてくるっと踵を返し、立ち去っていった。台風みたい……。
ちらと海雪を見れば、呆然としていた。
俺も呆然としたい。
海雪の部屋に行くということはすなわち死に近いのではないだろうか。
正直、行きたくない……。
けれど夏希パパのお願い。というか命令に近い。
俺はもちろん、海雪も断れないのでは……。
「え、えーと。や、やっぱ今からでも遅くないし帰ろうかなうん」
なんとか生きて帰ろうと思い、無理にでも帰宅を――。
「いえ……」
俺の言葉を否定し、覚悟を決めたかのように。
嫌そうに、海雪が言う。
「あとで……私の部屋に」
そう言い、たたたっと立ち去る海雪。
マジかよ……。
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