第28話 はいる

「夏希!?」


 シャワーを渡してくれたのは夏希だった。裸の。

 とっさに俺は目をそらす。


 ……別に見ても大丈夫だけど、一応、ね?

 局部は持っているタオルで隠れていたよ。


「待て待てなんでお前ここに来れるんだ。海雪はどうした?」


 あれだけ夏希と俺がいっしょに入ることを拒否していたんだ。

 ここまで来るのを止めないはずがない。


「ゆきちゃんなら夕飯を用意しにキッチンへ向かったよ?」


 きょとんとした顔で言う夏希。

 あいつ……!

 夏希はまだ理性崩壊中。

 ちゃんと見張っててほしい。


「……あー、じゃあ俺もう出るね」

「えーいいじゃんもっとゆっくりしてこーよー」


 立ち上がろうとした俺。

 そこに、おんぶをしてもらうかのように抱きついてくる夏希。


 男らしいとも、女らしいとも言えない肌。

 その質感を背中で感じる。


「ちょ、恥ずいからやめ……」

「いいじゃん。男同士だよ?」

「男同士でも恥ずかしいの」


 同性ならおそらく恥ずかしくないだろう。

 しかし夏希、制服を着ていなくても女子と見間違えるぐらいで……。


 そう意識してしまい、みょうに恥ずかしい。


「ほらほら、背中洗ってあげるからさ」

「いやいいって」


 もう一回立ち上がろうとした。

 しかし抱きついてきた夏希、意識してやっているのだろうか。


 謎の圧倒的な力で押さえつけられる。

 全力で抵抗する俺。


「おまえ、なんでそんなに力強いんだ……!」


 このまま押しつぶされてしまうのではと錯覚するぐらいの力。

 気になり、夏希に問う。

 こんなにも白く細い腕からなんでここまでの力が――。


「……筋トレしたから?」


 平然と言う夏希。

 マジかよ。すごいな筋トレ。


 俺も明日から筋トレしようかなとか思っていると。


「あっ」

「わっ」


 俺が力を抜いたため、一気に夏希が倒れかかってくる。

 そのまま俺はうつ伏せの状態となった。


 夏希もうつ伏せ。俺の上で。


「ごめんねー」


 耳元でそうささやかれる。

 おそらくこの絵面、けっこうやばい。


 とりあえず立ちあが――ろうとして、風呂場の扉が開かれる音が。

 顔だけあげ、そちらを見ると。


 海雪が……。

 …………。


 海雪の視線がとても冷たい。

 こちらへ歩んでくる海雪。


「あ、ゆきちゃーん」


 夏希だけのほほんとしている。


「海雪、これはぐえっ」


 俺らのもとまで来た海雪。

 俺は多少の弁明をしようと試みたがそんな暇もなく。


 猫の首根っこをつかむように、俺を持ち。

 そのままボーリングみたいに、海雪が入ってきた扉の方へ投げられた。


 低空飛行するかのように廊下へ。

 その飛行は、俺の体が廊下の壁に打ちつけられて止まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る