第27話 おふろに

「はい、着替え。まずはお風呂にでも入ってくるといい。お風呂は一階にあるよ」

「あ、はい……」


 パジャマや下着をぽんと渡され、すぐに立ち去る夏希パパ。

 長い廊下を歩きながらふと思う。

 ……自分の家以外の風呂は初めてだ。


 機会はあった。小中学の修学旅行だ。休んだけど。


 あんな状況下ではさすがに行きたくなかった。なにをされるやら。

 そんなことを考えながら、二十メートルほどの廊下を歩く。

 すんなりとお風呂場へ到着。


 わかりやすくこの扉には『お風呂場』という看板が。

 扉を開けると脱衣場。


 さらにその先の扉を開くと。


 一般家庭である俺の家より倍広い風呂場。

 でっか……テレビで見る旅館のみたい……。

 そんな感想しかでてこない。


 あたりをくるくると見回す。

 …………脱いでいいよね?


 みょうな恥ずかしさを感じる。

 自分の家ではないからだろうか。

 視線を感じるような……そんな気になる。


 服を脱ぎ風呂場へ入ると、浴槽も洗い場もやはり広い。

 我が家の浴槽は俺一人入るのが精一杯の大きさ。

 身長百七十ぐらいの俺でも脚を伸ばせない。


 ……風呂入る前って体洗うっけ?

 自分の家ならともかく他人の家だ。

 ルールとかやはりあるのだろうか。


 …………一応、先に洗っとくか。


 洗い場の方へ。

 これは……バスチェアというものだろうか。


 近くの台にはシャンプーやボディーソープ、その他大量に置いてある。

 多くね?


 なにこのリンスやコンディショナーって。

 女子の家はこんな感じなのだろうか。


 ……いやあいつら男やん。

 あの二人、すれ違うたびにいい匂いするけど。


 よくわからんからとりあえずシャンプーで髪を洗う。

 髪をわしゃわしゃ洗いながらふと思う。


 この後なにするんだろう……普通に寝ていいのかな……。

 遊ぶにも、夏希はおかしくなってるし、海雪ともあまり接点はないし……。


 ……お泊まりってなにするんだ?

 よし昔読んだ漫画に頼ろう。何してたっけな……。


 恋バナ……まくら投げ……いやこれ修学旅行だな。

 どうせならなにか思い出つくりたいなーとか思っていると。


「あ……」


 わしゃわしゃしすぎて目のところまで泡が。

 おけに湯を……桶どこ?

 シャワーで……シャワーどこ?


 おそらく、目を開けたら一気に泡が突入してくるだろう。


 それはやだなと思う。

 手さぐりで二つの希望を探す。


 ……ぜんぜん見つからん。

 これか? シャンプーだわこれ。


「これ?」

「お、シャワー。ありがとな」


 よかったシャワーが見つかった。

 ほどよい水圧のシャワーで泡を流す。

 なんとか助か……誰だよ今の。


 え、こわ。

 顔についた泡を洗い流し、目を開けると――。

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