第26話 おとまり

 部屋から出ると、夏希のパパがいた。


「もう、帰るのかい?」

「まぁ……遅くなってきましたし」


 夏の十九時。

 さすがに暗くなってきた。

 ……一応、早く帰らないと。


「今日……泊まっていかないかい?」


 パパが突然、言い出す。


「え……いや、いいですよ」

「遠慮しないでいいんだよ。夏希もきっと喜ぶだろうし」

「学校が……」

「夏休み中では?」

「……」


 大してやることも無く。

 明日は補習も無い。

 これ以上断る理由も思い浮かばず。


「……じゃあ、一泊、お世話になります」

「ありがとう。着替え等はこちらが用意しよう。……夏希と、海雪をよろしくね」

「……海雪?」


 理性崩壊夏希はともかく海雪?


「男にあそこまで心を許した海雪を見たのは初めてだ」

「そんなに……?」


あれで心を許している……?


「昔、家政夫さんがいたんだ。そして海雪の部屋へ掃除をしている時、不意に海雪と出くわしてしまい……」

「しまい……?」

「窓から投げ飛ばされた……」


 おっかないな。

 つか不意に出くわしてしまいって。


「そしてその家政夫さん、怯えながら次の日辞めたんだ……」


 そりゃ辞めるわ。

 いつ投げ飛ばされるかわからない恐怖の中で仕事できないよ。


「きっと、君なら海雪と仲良くできるだろう。……よければ、よろしくね」

「は、はぁ……」


 曖昧あいまいな返事をしてしまう。

 海雪とはあまり接点がないんだが……。


「夏希とも……末永くよろしくね」

「え?」

「いやなんでもない。我が家でゆっくりしたまえよ」


 そう言い、立ち去る夏希パパ。

 最後、なんて言ったのだろうか。

 まぁ、いっか。ゆっくりしていこう。


 ……よくよく考えればこれお泊まり会だな。

 漫画とかで見たことあるが、現実でやるのか。すこしワクワク。


 ……一応、父さんに連絡しとくか。

 ポケットからスマホを取り出す。

 父さんとはあまり仲がよくない。

 仕事ばっかりで、あまり話す機会もなく。


 メールで、友人の家に泊まる、そう端的に送る。

 なんでこのハイテクな時代にもなってガラケーなんだ父さん。

 そんなことも聞けないぐらいの仲。


「おーい、コウく……桜木クーン」


 あのパパなんであだ名で呼ぼうとしてんだ。

 夏希パパに呼ばれたのでそちらへ。

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