第21話 だんぼーる

「そういえばそうだったね……」


 夏希が言う。

 俺もすっかり忘れてた。

 もう見失っているだろう。


「キミたちはだれか立ち去るのを見なかったかい?」


 サッカー部員一同に問う夏希。

 しかし皆一様に、首を横に振る。


「すみません、なんか邪魔しちゃいました……?」


 拓海くんが、申し訳なさそうに言う。


「気にしなくていいよ、またね」


 手を振り立ち去る夏希。

 拓海くんに礼を告げ、夏希のあとを追う。



 *



「なぁ、夏希。いつまでここにいるんだ?」

「犯人がくるまで」

「いつ帰れるんだソレ……」


 さっきのダンボールの裏に戻ってきた。

 もうしばらく、粘るつもりらしい。

 時刻は十七時三十分。


「しかしなーさま。そろそろ……」

「まだ大丈夫だよ」


 なんの話だ……?

 陽が沈むまでに帰れることを祈ろう。


「たしかに、俺らがいつもいない時間帯だけど……」


 いつも俺らが帰ったあとに、あの紙束を置いていったのでは。

 そう考えた夏希。


 そんな簡単に来るのか……?

 と思っていると。


 また足音が聞こえる。

 マジで来るのかよ……。


 足音は徐々に近づいてくる。

 そしてピタリとやんだ。


 ちょうど、あの部屋の前で。

 ジッパーを開く音が聞こえる。

 次にバサバサと紙を落とすような……。


「現行犯では?」

「だね」

「あいつを捕まえます。なーさま」


 海雪がそう告げ、走りだ……足はやっ!?

 一瞬で距離をつめ、犯人とほぼ確定した者に飛びかかる海雪。

 腕を拘束され、身動きが取れない犯人。


「海雪、パワフルだな……」

「運動が得意だからね」


 窓から投げとばすはマジでやりそうだな。

 夏希が我先にと犯人のもとへ。

 しかし、こうもあっさり解決するとは……いささか拍子抜けする。


「さて犯人は……」

「離せッ!」

「ひっ」


 犯人がマスクをつけていたので、夏希が外そうとした。

 しかし、犯人が叫ぶと同時に、海雪が拘束を解いてしまった。


「え!? なんで離した!?」

「男だったからだ!」


 夏希が代わりに返答する。

 どんだけ男が嫌いなんだ!?

 海雪は驚き、震えている。


「どうするんだ!?」

「コウくん! それ一個取って!」


 夏希がダンボール箱を指さす。


「これか!?」

「それ!」


 両手で持ち、すこし重いぐらいのダンボール箱。中に多少、雑貨等が入っている。

 それを夏希に手渡す。


「マジでなにすんの!?」

「こうする、のっ!」


 犯人との距離は数メートルほど。

 夏希は手にしたダンボール箱を、勢いよく犯人に向かって投げた。

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