第18話 不穏

 部屋をキョロキョロと見回す。

 え、怖っ、なんで急に音もなくいなくなるの。


 振りかえると、夏希がいた。

 戻ってきたらしい。

 そして、その腕にしがみつく、海雪。


 え、怖っ。戻ってきたらすぐに俺の後ろまで移動したの?


「コウくんになにもしてないね? ゆきちゃん」

「はい、してません」


 脅されたよ。

 海雪をなでなでする夏希。


 女の子同士かと思えば男同士でやってんだよなこれ。

 まぁ、夏希も海雪も女と見間違えるくらいかわいいけど。


「さて、コウくん。今日、ここに来てもらったことなんだけど……」


 そういえばそうだった。


「今日はなにすんの?」

「これ、見てくれるかい?」


 紙を渡される。

 さっき、夏希が見ていた紙だ。


「うわっなにこれ」


 A4ぐらいの紙、それがざっと百枚近くある。


 ぺらぺらと見る。

 黒のマジックペンでなにか書いてある。


 バカ……アホ……マヌケ……こんな部活滅びろ。


語彙力ごいりょく低くない?」

「ボクもそう思う……」


 呆れ半分、哀れみ半分といった感じの夏希。

 そのほかのもぺらぺらと見るが、悪口しかない。


「なにこれ?」

「苦情だと思う」

「俺らなんかしたっけ……?」

「さっきの電話、それもいたずらだった」

「警察に言った方が……」

「今日、初めてかかってきたし、どうしたものか……」

「もしかして、三日前のヤツらとか?」


 三日前の不良二人組。

 なにかと因縁をつけてきてもおかしくはない。


「いや、声がぜんぜん違った……というか、なんか聞き覚えがあったんだ」

「知りあいにいるのか……?」


 だれかな、と思ったけど俺の知りあい、夏希以外いない。


「ボクはゆきちゃんとコウくん以外、友だちとかはいないさ」


 さらっと悲しいこと言うな……。

 本人はあまり気にしていないと思うけど。

 でも俺も友だち認定されてるのちょっと嬉しい。


「海雪も……うん、ボクと同じだろうね」

「なーさまさえいれば生きていけます」


 夏希への依存がすごいな。


「結果、だれなんだ……?」


 考えてもだれも浮かばない。

 浮かぶ人がいないからか。


「先生には言ったか?」

「」


「この紙の束、どうやって俺らの所に?」

「扉の前でバラまかれていた」


 いつもの入り口。

 そこにバラまかれていたと。


「どうする?」

「うーん、今日はとりあえず帰ろう。もうすぐ十七時だ。また明日ね」


 夏休み中、学校にいてもいい時間は十七時までだ。

 今日のところは帰宅した。

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