第17話 そうですか

「はい、私は男ですよ」


 カップにいれた冷たい紅茶を持って、戻った海雪から確認をとった。

 無表情のまま、海雪は淡々と言う。


「な、なんでそんな恰好してるの?」

「……男が、嫌いだからです」


 自分自身も嫌いなの……?


「え、じゃあ俺今、現在進行形で嫌われてんの?」

「そうなるね。ゆきちゃん、いま我慢してる方だけど」


 紅茶を飲みながら、答える夏希。

 たしかに、俺の紅茶だけない。地味に傷つく。


 しかも戻ってから海雪は、夏希の左腕にずっと抱きついている。

 海雪の顔は、こころなしか安らかになっている。


「我慢してない時、どんな感じなんだ?」

「この部屋から投げとばされてると思う」


 え、怖っ。

 窓を指さし、言う夏希。

 ここ四階だぞ……。


「でも今はボクがいるから中和されてるんじゃないかな?」

「ずっと俺のそばにいろよ夏希」

「告白かい? 照れるね」

「そういう意味じゃねぇ!」


 しかも本当に照れてんのかよ。

 頬がすこし赤くなっている気がする。


「……なーさま、こいつはなんなんですか?」

「彼も一応、この部の一員だよ」

「海雪……さん? も部員なの?」

「さんはやめろください」

「あ、はい」


 あきらかに夏希と俺で態度ちがうなこれ。あと敬語か? それ。


「うん。海雪も部員だよ……あ、ごめん電話だ」


 そう言い、海雪にことわりをいれ、一旦部屋から出ていく夏希。

 なんか大変そうだな……って、おい待て。


「おい、一人にすんな……ってはやっ!? もういねぇ!」


 すでにいない。

 まずい、投げとばされる。

 できるだけ痛みを和らげる方向で……いや抵抗しろよ。


 しかし、なにも起きない。


 ちらと海雪を見る。

 ソファーに背筋を伸ばして座っており。


 無表情のまま、まっすぐ前を向き、すこしプルプルしている。

 我慢……してるのか?


 夏希のために?

 もしや夏希のことが……。


 まさかな、男同士だし。ないない。


 しかし、かわいいところもあるんだな。

 失礼なやつかと思ったけど、今見ると愛らしさも感じられる。


「……おまえは、なーさまのなんですか?」


 不意に海雪が尋ねる。

 ぜんぜん目を合わせてくれない。


「なーさま……夏希のことか? なんですかって言われても……」

「付き合ってるのですか? ないのですか?」


じょじょに立ちあがり、近づいてくる海雪。

ストップストップ何する気だ投げとばす気だな。


「つ、付き合うもなにも、男同士だろ? あるわけないだろ」

「……そうですか」


 無表情のまま、しかし安堵しているように感じる。

 いまいちつかめない子だな……。


 そう思っていると目の前にやってくる海雪。

 俺の胸元ぐらいに顔をよせ、上目遣いで見てくる。


「……なんでしょうか?」

「なーさまに、変なことしないでくださいよ。したらころ――」


 めっちゃ不穏なこと言ってない?

 そう思っていると、目の前から海雪がいなくなっていた。

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