第16話 あなたは

「キミだろ? ゆ……海雪みゆき


 夏希が後ろに視線をよこしながら、そう言う。

 俺は振りかえると後ろに、補習の時見た子が立っていた。


「うおっ……いつの間に……」


 さっきまでいなかったよな……?


 黒髪のショートヘア。

 鋭い目つきが特徴的。

 クールな印象を受ける。


 かわいいというより、美麗な感じだ。


「やぁ、ゆきちゃん」

「こんにちは。なーさま」


 仲睦まじく会話する二人。

 疎外感すごい。

 あだ名で呼び合う仲……。


「ところで……なーさま、こいつは?」


 その子……海雪は俺の方を見ながら聞いて……いや口悪っ。

 一応、初対面のはずなんだけど……。


「彼はコウく……桜木光基くんだ」

「……そう、ですか」


 夏希の返答を聞き、俺ににらみをきかす海雪。

 なんでそんな睨むの……。


 なんかしたっけ……でも、恨みというより嫌悪されてるように感じる。


「紅茶、用意しますね」

「ありがとう」


 台所へ向かう海雪。

 それを確認し、夏希に小声で尋ねる。


「なんか俺、あの子からすごい嫌われてない? 」

「あぁ、ゆきちゃん……八重栗やえぐり海雪は男嫌いだからね」

「へー……って、なんで夏希はいいんだよ」


 こんな恰好をしているが、夏希は男だ。

 おそらく、夏希と海雪は兄妹とか姉弟ではないだろう。


「慣れたんじゃないかな? ボクだけだと思うけど」

「昔から仲がいいのか?」

「五年ぐらい、いっしょに過ごしてるよ」

「五年も!? しかも、いっしょに?」

「うん。同じ屋根の下で暮らしてるよ」


 五年もいっしょに過ごしてれば、その人ぐらいは慣れてくるだろう。


「でも、大丈夫なのか?」

「なにがだい?」

「いや、ほら……」


 仮にも同年齢の男女がいっしょに過ごすなど、周りからなにを言われるか……。


 俺が言わんとしたことを夏希が察したのか、不意にこんなことを。


「それなら大丈夫だよ。ゆきちゃんもだし」


 へー海雪も男なのか。

 なら大丈夫だな。

 …………。


「は!? 男なの!?」


 俺の叫びが廊下に届くぐらい響いた。

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