第14話 ありがとう

「…………」


 いや追いかけたのはいいけど、どこ行ったんだ夏希。

 とりあえず右へ――、


 走りだそうとして、見つけた。

 走れば数秒で向かえる距離。

 男二人に絡まれている。

 揉めている……?


 たぶん、「ボクは男だ」とか言ってるんだろうな。

 というか、なぜかモヤモヤする。


 なに考えてんだ俺は。

 夏希がほかの男と話してるだけじゃないか。


 やるせない気持ちになっていると。

 夏希の手を背の低い男が引っ張る。


 そのまま、路地裏へ連れ込まれる。


「なにやってんだ、あいつ……!」


 感情のまま走り出す。

 なにやってんだ、そいつらは誰だ。

 そう思いながら声をかけ――。


 夏希が殴られていた。

 腹部の痛みに悶絶し、うずくまる夏希。


「だいたいさぁ、男なのにこんな恰好してたら、おかしいでしょ」

「それな! ひー助わかってるぅ!」


 二人の男が騒ぐ。

 そして、瞳をうるませ、俺を見てくる。

 俺はその瞳から夏希の思ってることを理解した。


 助けて。


 駆けだし、長身の男を殴る。


「ひ、ヒー助!?」

「おい大丈夫か夏希? 立てるか?」

「コウくん……」

「無視すんなよ!」


 怒りをあらわにする低身の男を無視し、夏希の手を引き、逃げる。

 ひたすら、俺らは走った。



 *



 共に息を切らし、走り着いた公園のベンチで座って休む。

 夕陽がまぶしい。

 数分たち、落ちついてきたため。

 夏希に、さっきなにがあったのかを聞いた。

 そして、過去も。


「あの時の子、夏希だったんだな」

「助けてくれて、ありがとう。……でも、がっかりした?」

「なんでだ?」


 おずおずと聞く夏希。


「だって、ボク……男なんだよ?」


 ……なんだ、そんな事か。

 もう今更だろ、これ。


「女の子だと思ってたみたいだし……」

「別にいいだろ」

「え……?」


「夏希が、男だろうが女だろうが、助けてたさ」


 それだけは言い訳もなにもない。

 あんなのを見せられたら、誰だって助けただろう。


「だからさ、これから……よろしくな」


 気恥ずかしくもあったが、なんとか言えた。


「……うん、……うん」

「ちょ、なんで泣いてんだよ?」

「いいでしょ……べつに」


 俺に寄りかかり、泣く夏希。

 泣き止むまで、俺はそばにいた。

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