第13話 あの子の過去

 足早に店を立ち去る。

 近くにベンチがあり、そこに座って俯いていた。


 ほんとに、コウくんだったんだ……。

 小学五年のころ、ボクはいじめられていた。


 理由は、この見た目。

 そして性格だった。


 臆病で引っ込み思案で泣き虫、そのうえ昔はこの髪を腰まで伸ばしていた。

 見た目はムリしていたわけではない。


 かわいいからよかった。

 ただ、周りから見るとその存在は、異端だったのだろう。


 男のくせに、女みたいな恰好、見た目。


 そしてある日、男女四人組に呼び出された。

 おそるおそる向かうと、たいした理由もなく暴力を振るわれる。


 この事を絶対に言うなよ、殴った男子が去り際につぶやく。


 いま思えば、なんの強制力もない言葉。

 しかしその時のボクは怖かった。


 だれにも相談できない、それが一ヶ月続いた。

 そんな日々に転機が訪れる。


 見知らぬ男子が助けてくれた。

 ボクがあっけに取られているなか、冷静にこのことを対処してくれる。


 ボクは先生を呼びにいった。

 彼の後押しがなければ一生、言えなかったかもしれない。


 先生に言った。

 情けなく泣きながらも、全部。


 翌日から、転校が決まった。

 こんなにも早く決まるものなのか。


 せめて、助けてもらった彼に、お礼を言いたい。

 しかしそれは、叶わなかった。



 *



 昔を思い出し、すこし涙ぐむ。

 夕やけがキラキラとまぶしく感じる。


 このことをコウくんにはしっかりと伝えよう。

 そんなことを考えていると。


「ねぇねぇ? 君ひとり?」

「え……?」


 不意に声をかけられ、顔をあげる。

 目の前に、二人の知らない男が。

 大学生ぐらいだろうか。

 共に中肉中背。

 長身の強面とチャラチャラした低身。


「……いやゼッタイひとりでしょ? 彼氏にでも振られたんじゃね? ショーもそう思うだろ?」

「お、ヒーすけくんは頭冴えてるなぁ」

「ち、ちが」

「とりま、遊びにいこうぜ」


 これがナンパというやつだろうか。

 次の瞬間、ショーと呼ばれた男がボクの手を強引に引っぱる。


 そこまで強い力ではなく、振りはらうだけならできなくもない。

 けれど怖い。


 恐怖で力が、入らない。

 そのまま路地裏へ、連れ込まれた。


「で、どこ行くよ? かわい子ちゃん」

「……かわいいのは認めるけど、ボクは男だよ」


 声をふりしぼり、諦めてくれることを願い、言う。

 それを聞いた二人組は、顔を見合わせ笑った。


「はっ。嘘つくなよ。そんな見た目で何言ってんだ」

「うそじゃない! ほんとに男……」

「うるさいなぁ」


 後ろで見ていたヒー助とやらが口を開く。

 近づき、そしてボクの腹部を殴った。


「……っぐ」

「男なんでしょ? これぐらい、耐えれるよね?」

「げほっ……ごほっ……」


 痛みでうずくまる。

 苦しい……。

 過去の恐怖が、よみがえる。


 助けて、コウくん……。

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