第12話 なぜ

「そんで、今日に至るってわけで……」


 話し終え、ジュースを飲みつつ、夏希を見る。

 さっきまでポテトをパクパクと食べていた手が、今では完全に止まっている。

 というか口開けて呆然としている。


「夏希?」

「ひゃい!」


 声をかけると、なぜかとても驚かれた。


「あ、わるい。なんかぼーっとしてたぞ?」

「だ……だいじょぶ、うん」

「満足したか? 話聞けて」

「コホン……いくつか質問してもいいかい?」

「いいけど……なんだ?」


 咳ばらいをし、聞いてくる夏希。

 なにか気になる所でもあったのだろうか。


「コウくんは……結果的に、五年もいじめられてたってこと……だよね?」

「まぁそうなるな」


 おずおずと聞いてくる夏希。

 小学五年から中学三年の間だから五年。


「辛かったりとか……」

「……辛かったよ」


 たいして知らんやつから、心にもないこと言われたり、やられたり。

 辛くないわけがない。


「よく言い訳をするのも……」

「……俺に、自信がないからかもな」


 何度も自殺しようか考えたぐらい、自分の存在価値がわからなくなっていった。

 そのうち、無理だとか、できないだとか言うようになって。


「じゃ、じゃあさ……」

「ん?」

「その、金髪の子を……恨んでたりしないかい?」


 唐突に、そして、どこか居心地が悪そうに聞く夏希。


「……なんでだ?」

「なんでって……その子が、原因でいじめを受けたようなもんじゃないか!」


 平然とした態度で返したのが気に食わなかったのか、語気を強める夏希。

 それに対し、俺は――


「なんで、恨まなくちゃいけないんだよ」


 思ってることを素直に返した。


「え……?」

「その子は関係ないだろ? 俺自ら、助けに行ったし。しかも、助けれてよかったさ」

「でも……」

「でももなにも、俺が悪いって所もあるだろ」


 たしかに、助けなければこんな風にはならなかったのかもしれない。


「それでもさ、あの時はあの行動をとって正解だったなって、思ってるよ」

「…………」

「まぁ、そのあと五年も続くのはどうかと思うけどな……」


 乾いた笑いで、悲しさをごまかす。

 対して、夏希はうつむいている。


 そのため表情は、読みとれない。


「お、おい……どうした?」

「……ご、ごめんね。今日はもう帰るね」

「き、急だな、ほんとにどうした?」

「またね……」


 席を離れ、足早あしばやに立ち去る夏希。

 話し始めてから、いつもとはすこし違った雰囲気を感じた。


 あと――


「……泣いていたな、夏希」


 立ち去る瞬間、夏希の横顔から、一筋の涙が流れているのを見た気がした。


 あとを追いかけるように、俺も店を出た。

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