第8話 おでかけ

「おーい? もう三時だぞー」


 窓の外から語りかけてくる夏希。

 ここ二階だぞ……。


「なにやってんだ……」


 窓を開けると、すぐに夏希が入ってくる。

 学校はないのに制服を着ている。


「どうやってここまで登ったんだよ……」

「壁に手を引っかけて、こう……」


 身振り手振り、登るシーンを再現する夏希。

 アクティブだな……。


「……まぁいい。何しに来た?」

「起こしにきたんだ、やりたいこともあるし」

「……今日から夏休みだぞ?」

「留年したくないだろう?」


 今年の夏休み、ほとんどそれ関係で無くなりそう。


「わかったよ……着替えてくるから、待ってろ」

「ここで待ってるね。コウくん」

「……なにそれ」

「あだ名だよ」

「なんで」

「桜木とか光基とかちょっと呼びづらいじゃないか」


 コウくんねぇ……。


「ま、いっか……」

「ボクのこともあだ名とかで呼んでいいんだよ?」

「なんで上から目線……やだよ」

「えー、なんでだよー」


 ぶーぶー言う夏希を無視し、着替えや出かける準備をする。



 *



「今日はなにするんですかー」

「やる気ないなぁ……」


 棒読みで問いかけ、呆れられる。

 だってこの暑さだよ……。

 ジーンズとシャツだけだが暑い。

 あと今日行くなら事前に言ってくれ……。


「今日は街を歩いてみよう」

「え、それだけ?」

「あとは……ショッピングをしたりね」


 二人でてくてくと、歩みをすすめる。

 デートみたいだなー。

 夏希、男だけど。


 現在、あるショッピング街を歩く。

 さまざまな店舗があり、ほとんどの事はここでやれる。


 七月二十一日の土曜日。

 世間一般でも休日なため、活気だっている。


 その大通りを歩く俺ら。

 歩いて……歩いて……歩いて……。


 会話が途絶え、気まずい。


 となりを歩く夏希をちらと見る。

 堂々と歩くその姿。


 どう見ても男には見えんよなぁ……。


「夏希はさ、いつからそういった恰好をしてるんだ?」


 気を紛らわすように夏希へ話しかける。


「生まれた頃からだよ」


 は?


「は?」


 思わず心の声が漏れでるくらい、驚く。

 いやまて落ちつけ。

 生まれた頃ぐらいなら意図せず、女の子に見える恰好をしてても不思議ではない。


 二人に一人ぐらい、そういう経験はあるはずだ。五割じゃん。

 きっとそういうことなのだろう、うん。


「生まれたころから今日まで、ずっとこんな感じだよ」

「あ、うん、そだね」

「コウくん、ぜったい信じてない……あ」


 すこし不機嫌そうにつぶやく夏希。

 そして、ある店に目をつける。


「あのお店、行こうか」

「あの店……え」


 夏希が示した店。

 アクセサリーなどの小物や、女性用の服を売っているようだ。


「あ、じゃあ俺、外で待ってるわ、うん」

「なに言ってるんだい? コウくんも行くんだよ」

「なんで行かなくちゃいけないんだ……」

「単位」

「……」

「留年」

「よし行こうか」


 魔法の言葉すぎるだろ、それ……。

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