第6話 好きです

「もう行くの?」

「すでに準備は完了している」

「はい! がんばりました!」

「俺知らない……」


 なにをがんばったの……?


「一週間前から、神谷くんは沢野くんと仲を深めていたんだ」

「たとえば?」

「部活の時、タオル渡したり……水持ってきたり……」


 思い出すように神谷くんがぽつりぽつりと言う。


「あと……いっしょに遊びにいったりしました!」

「そして、今日、屋上へ呼びだしたんだ」


 ……。

 けっこう仲良いな。

 夏希へこっち来いとジェスチャー。

 神谷くんからすこし離れてささやき声で話す。


「俺いる? 存在意義、疑いはじめてるよ?」

「同じことをやってる者がいれば、多少はその行為にたいするハードルが下がるだろう?」

「つまり?」

「一人でやるより、みんなでやろう……的な?」


的な? って……。

まぁ、わからなくはないが……。


「すごい、感覚的な話だな……」

「そうかもしれないな。では、向かおうか」


 では、じゃないんだが。



 *



 学校の屋上。

 時はすでに夕刻。

 すこし離れたところから、彼らを見守る俺と夏希。


「なんか緊張するな……」


 すでに神谷くんは沢野くんと対面している。


「どうしたんだ? 拓海?」

「ご、ごめんね急に呼び出して……実は」


 いいぞ……がんばれ。

 心の中でひそかに応援する。


「た、大河のことが……」


 しぼりだすように、神谷くんは言った。


「す、好きなんだ……」

「……」


 神谷くんの言葉を聞き、呆気に取られる沢野くん。

 返答は――。



 *



「うまくいってよかったよかった」

「あっさり終わったな……まぁ、よかったけど」


 告白は成功。

 屋上のベンチで二人は、なかよくお話し中。


「ところでさ……」

「ん?」


 ずっと、疑問に思ってたこと。


「これ、部活なのか?」

「言ってなかったっけ?」


……たしかに、先生は部活って言ってたな。


「何部かは言ってないな。何部?」

女相談部じょそうだんぶ

「なにそのネーミングセンス……」

「ボクが決めたんじゃない……まぁ、部活名はあまり気にしないでいいさ」


 といった感じで、留年回避のための生活が始まった。

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