第5話 好きな人は

「彼は――好きな人がいるんだ」

「好きな人?」

「ああ、今ハイタッチした子がいるだろう? 彼……神谷くんが好きな人だ」


 ……。


「……男同士?」

「うん」


 平然と返事をする夏希。


「……」

「まぁ聞きたまえ――」


 ……どうやら。

 神谷くんは彼……沢野大河さわのたいがくんが好きらしい。

 俺らはその告白を手伝うとのこと。


「……俺、いる?」


 別にいなくてもいいのでは。


「いてほしい。……お、ちょうど練習が終わったみたいだね」


 コーチ? が木口先生だ……。

 ありがとうございました、と聞こえる。

 各々解散するなか、一人こちらへ向かってくる。


「西村さーん!」


 とことこ、そんな感じでやってくる神谷くん。

 ……。

 なんというか……。


「小動物みたいだな……」

「かわいい子だろう?」


 微笑む夏希。

 すこし息を切らしてこちらへ来た神谷くん。


 この暑さもあり、汗をかいているがさわやかな印象を受ける。


「ふぅ……来てくれたんですね。ありがとうございます」

「気にしなくていいよ」


 二人してなかよく話してらっしゃる。

 てか神谷くん、夏希よりも背が低いな。

 夏希は百五十ぐらいだろうか。

 対して神谷くんは見上げるように、夏希と話している。

 百四十ぐらい……?


 そう思っていると、神谷くんがじっと俺を見てくる。


「そちらの方は?」

「桜木くんだ。協力してくれるらしいぞ」


 それを聞き、神谷君はぱっと笑う。


「わー! もう一人いたんですね! ありがとうございます!」

「お、おう」


 ペコりとお辞儀をされる。

 純真でいい子だなぁ……。


「神谷くん……だっけ? 告白するって聞いたけど、なんで俺たちに協力を?」

「えっとですね……」



 *



「に、似合ってますか……?」

「バッチリさ!」


 さっきいた部屋へ戻ってきた。

 女子用の制服を着た神谷くん。


 そんな光景を見ながら、ぼっーと思う。

 神谷くんから聞いた話、青春謳歌しまくってて驚いた。

 沢野くんとは小学生の頃から仲が良く。

 ともに過ごすうちに好きになっていった。

 しかし、好きだけど告白する勇気はない。


 まぁ、ちょっとしたひと押し。

 一歩踏みこむきっかけが欲しかったのだろう。


「涼しいですね。これ」

「だろう? 」


 そんな会話を聞きながら、ふと思う。


「な、なぁ……」

「なんだい?」

「その恰好する意味、ある?」

「あるに決まってるだろう?」


 当然と言わんばかりに即答する夏希。


「ないだろ」

「あるさ。見た目は大事だ。容姿がよければ自信につながるからね」

「そうですよ、桜木さん!」


 快活に同意をしめす神谷くん。

 着ただけなのにみょうに似合ってる……。

 元の素材がよけりゃそりゃなぁ……。


「よし、では行こうか」

「どこへ?」


 俺この先なにするか知らないよ?


「決まってるだろ? 沢野くんのところだ」

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