第4話 いやだ

「離せ! 俺は帰る!」


 俺の叫びが、廊下に響く。


「待て待て! 留年してもいいのかい!?」

「むぅ……」


 たしかに、留年はいやだ。

 できることなら、まともな高校生活を送りたいと思っていると。


 俺の腰に抱きついて、夏希が止めてくる。

 さっきの話を聞いた俺は、廊下へ逃げようとした。


 そこへ、夏希が身を挺して止めてきた。

 かまわず俺は逃げだす。


「無理だって! 笑いものにされるだけだ!」

「大丈夫だって! ぜったい似合うから!!」

「なんの根拠があるんだよ!?」

「根拠なんてない! けど、誰だってかわいくなれるんだ!」


 根拠のない自信を披露する夏希。

 俺は逃げようとし……こいつ力つよっ!?

 体がまったく動かない。


 スレンダーな体型。

 半袖の制服。

 そこから、夏希の白く細い腕が見える。


 どこにそんな力あるんだよ!


「別にいいだろう? かわいい恰好もできて、周りからもかわいいと言われるんだよ!?」

「やだよ! ぜったい嘘だろ!?」

「そんなことない! 今からそれを見に行こう!」

「それ?」

「ああ、君に勇気を与えてくれるだろう」



 *



「あの子ってどの子?」

「あの子あの子」


 なにこの中身のない会話。

 ここは運動場。

 セミの鳴き声はとてもうるさく、昼下がりの陽射しがギラギラと照らしてくる。


 そしてすこし離れた場所にて、部活動に励むもの達。


「サッカー部の子か?」

「そうそう、あそこにいる他の人より背が少し低い……」


 かけ声をとばし、練習に励むサッカー部の人たち。

 その中にいる背の低い子……あの子かな?


「男……だよな?」

「男だよ」


 そう確認したくなるぐらい、その子はかわいい。

 黒い髪はベリーショートだが、活発な女の子ととれなくもない感じ。

 その子がシュートし、ゴールを決めた。


 パスをまわしてくれた子だろうか。

 その子とハイタッチする姿は、とても愛くるしい。

 青春してるなぁ。


「彼の名前は神谷拓海かみやたくみ。ボクら同じ一年でサッカー部。そして彼は――」

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