第3話 マジで

「ボク、男だよ」


 夏希が立ち上がり、もう一度、丁寧に言う。

 俺はといえば、驚愕してた。


「まじ?」

「うん、マジ」


 あらためて夏希を見る。

 透き通るような白い肌。

 胸は……ない。

 なぜかほんのりと甘く、さわやかな香りがする。


 これが……男?

 頭の上に疑問符が浮かんだように感じる。


 俺が悩んでいると、夏希がため息をつく。

 そして俺の方へ歩みよる。


「信じていないようだね」


 歩み寄る夏希に、うなずきで返す。

 信じられない。


「こうすれば、信じてもらえるかな?」


 右手を掴まれる。

 そのまま引っ張られ、今度は――。


 俺の手は、夏希の……。


「これでわかっただろう?」


 下腹部へ……。

 傍から見たら、男が女の子にわいせつな行為をし……。


 ……。

 数秒、触れる。

 …………。


 膨らみが、あった。



 *



「そっか……ボク、女の子だと思われていたんだ……」


 少し切ない表情で夏希はつぶやく。

 俺はといえば、申し訳なさでいっぱいだ。


「あーっと……なんか、ごめんな。勘違いしてて」


 俺なりに誠心誠意、謝罪する。

 男にとって、性別を間違われること。

 弱々しいと思われている。

 言われた人はそう考えても不思議ではない。


「……いいんだ。事前に言わなかったボクも悪いさ」


 ふっと微笑む夏希。


「さ、気にせず着替えるといい」

「お、おう……って、やだよ!」


 しんみりとした雰囲気に流されそうになった。


「なんでそこまでかたくななんだい?」

「男なら誰だって女装なんていやだろ!?」

「ボク男だよ?」


 そうでした……。


「というか、なんでその恰好をしないといけないんだよ?」


 ここまですすめてくるんだ。

 なにかしら理由が……。


「男の娘を増やしたいんだ」


 理由が……。


「どういうこと?」


 男の娘は理解できるよ。

 マンガやアニメとかでたまに見るし。


「君も、『かわいくなりたい』と。一度くらいは思ったことがあるだろう?」

「ないです」

「あります」


 俺の発言に力はないみたい。


「……つまり?」

「将来的に、男が女性の服を着ても文句を言われないようにしたい」


 へー壮大だなぁ。


「そっか、がんばれよ。遠くから応援してるわ、じゃあな」


 そうして俺は、入ってきた扉から出て行った。

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