第26話 新たな出会い
「本当に入団して正式な騎士にならないのかい?」
「はい、お誘いは嬉しいですが、俺は称号が無くても勇者ですから」
「ふふふ、そうだね。 そうやってはっきり言えるようになったことが成長の証だな。 ただ、何も無しで君を手放すのは、あまりに勿体ない。 騎士団の皆も君のことを認めている。だから、君には副団長の称号を授与する」
「副団長ですか……? そんな立場の人いましたっけ?」
「いや、いない。 他の国にはいるみたいだが、うちでは作っていなかった。 君は騎士団に正式には入らないと言っていただろう? 一種の名誉職のようなものだ、受け取ってくれ」
「分かりました。 ありがとうございます!」
新たな称号を得て、1年間所属した騎士団を後にする。
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騎士団で訓練を続けた1年間、冒険者業から離れていた。
今日は久しぶりに冒険者へと復帰する。今までと違うのは夏樹1人だということ。なんだかんだでソロ依頼は初だった。そのため、自分のランクより2つ低いDランクのロック・リザード討伐依頼を受注した。
「グキャアァア!!」
今の夏樹は以前のようなステータス任せで、硬い鱗を打ち砕くなんて荒技は出来ない。討伐方法は自ずと限られてくる。
滑るように切迫し懐に潜り込む。足首のスナップのみで背後に回り、鱗の隙間に剣を突き刺す。即座に引き抜き、よろめく相手の眼に再度突き刺したところで動かなくなった。
関節部には動きを制限しないために鱗が無い、眼は硬くない、この2つの弱点を的確に突いた形だ。
「まぁまぁかな、さっさと解体して次行くか」
同じ要領で規定数の討伐をこなして、帰還準備をしていると。
ーーー!! ーーー!!
誰かの叫び声と微かな魔力を感じて走り出す。
「がははははは! 今回は当たりみたいだなぁ。 随分と上玉だ、おい、さっさと縛り上げて連れてくぞ」
横転している乗り物、動かなくなっている馬、生きている1人の周囲に転がる数人、それを囲む10人組。先ほどの下衆な発言は囲みの1人だ。
エインが言ってたな、街道沿いや森を通る商人を狙った盗賊がいるって。見えなくても、これ以上ないぐらい状況が分かるな。
「どちらにせよ、傍観は出来ない」
囲みの3人が中央の1人に向けて歩き出した直後、その間を縫うように影が通り過ぎる。
「……あ?」
冗談のように落ちる3人の首。
何が起きたのか分からず固まる囲みは、いつの間にか中央の2人を守るようにして立つ男に意識を向けた。
「誰だ、てめぇは!?」
「答える必要が無い。 襲われている人がいたから助けに来ただけ」
「……ふざけんなぁぁあ!」
残りの7人が襲いかかると同時に、夏樹の気配が薄れていく。目の前にいるのが見えているのに、認識出来ない。そんな矛盾を作り出す。
「な、なんだ、こいつ。 目の前にいるはずなのに……なんか変だぞ、こいつ、気をつ……」
最後まで言い切る事はなく、首が飛ぶ。
気付けば、仲間の首が飛んでいる。そんな不可解な状況に徐々に恐怖を感じ始める盗賊達。そんな奴らを逃すわけもなく、数分で壊滅。
「ふぅ……これで全部かな。 さてと……お前ら大丈夫か?」
中央で座り込み動かない人に声をかける。
「……助けてくれてありがとう」
「いや、無事で良かった。 周りに倒れてるのは仲間か?」
「違うよ、私は奴隷。 周りで倒れてるのは奴隷を売る人と護衛の人」
「……! 奴隷か……まぁ、定番といえば定番だが。 それはそうと、この頭に付いてるの何だ?」
「ひぅっ……! 耳だよ? 亜人を見た事がないの?」
「あぁ、見た事がない。 耳だったのか……悪いな、いきなり触って。 何の亜人だ?」
「猫系の亜人だって聞いた」
猫……系? 虎とか獅子だったりするのかね。
「まぁ、いいや。 お前、名前は? 家はどこだ、近けりゃ送ってやるんだが……」
「メア。 家はもう無いよ、盗賊が来て村ごと燃やされちゃったから」
「……! 悪い、気軽に聞いていい内容じゃなかったな。 しかし、困ったな、行く宛無しか。 とりあえず、王都に戻って誰かに相談してみるか」
亜人奴隷のメアとともに王都への帰路に着く。
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