第24話 弱者の戦い方
夏樹が寝かされていたのは、ミニエイル王国の王都タリアスにある小さな宿だった。コパンの冒険者や騎士達が負傷者を王都へと搬送したのだという。
目を覚ましてから1週間が経った。あれからエインとは会っていない。
体調が十分に回復したため、1人で王都を散策していた。
「おい、お前1人で何してんだぁ? へへ、怪我したくなけりゃ、金目の物を置いてけよ」
路地でガラの悪い3人組に絡まれる。
脅してきた1人に切迫して左拳を、横に立っている1人回し蹴りを叩き込む。
「ステータスは下がったけど、これぐらいなら1人でもやれる」
「はっ、なかなかやるじゃねぇの。 それぐらいで良い気になんじゃねぇぞ?」
残った1人は他の2人より動きが早く、防御が間に合わない、鳩尾に蹴りをまともに食らってしまう。
「ぐはっ! この程度にも勝てないのか……くそ、くそ、くそ!」
相手が短剣を抜き放つが、眼前で左のメリケンサックで受け止める。空いた胴体に蹴りを入れようとするが、片手で受け止められ投げられる。
「ははははっ、弱いなお前」
「……!! うるせぇええ!」
飛び掛かる夏樹をカウンターで放たれた拳が捉え、地面に叩きつけられる。
「じゃあな、クソガキ」
倒れている夏樹に短剣を振り下ろすが、間に差し込まれた剣に弾かれ宙を舞う。その直後、男が吹き飛んでいった。
「ふぅ……君、大丈夫かい? そこで少し待っていてくれ、すぐに終わらせる」
中性的な声の人物に助けられたのだと理解すると同時に意識を手放した。
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「……まただ、また負けたのか」
ベッドの上で寝かされている事が分かり、言葉をこぼす。
「ん? あぁ、起きたんだね、良かった。 軽傷だったし、すぐに動けると思うよ」
「あなたが助けてくれた人ですか、ありがとうございました……」
ベッド脇に座っている人物に礼を言う。
「いいよ、助ける事が仕事だからね」
「助ける事が仕事? あなたは一体……」
「自己紹介がまだだったね。 僕はミニエイル王国騎士団団長フェイ・クルースだ、よろしく。 それはそうと、君はあんな場所で一体何をしていたんだい?」
夏樹は一瞬躊躇ったが、隠す事でもないと考え今までの経緯を説明する。
「にわかには信じがたい話だが……君が嘘をついているようには見えないね。 事実、最近聞いた勇者に関する話と君の話は一致している。 なるほどね……でもね、僕には分からないんだ、勇者の力を失う事が戦えない理由になるのかい?」
「……は? なるに決まっているでしょう、勇者の力を失った俺は弱くなりました。 戦うことはもう無理です、さっきの不良にすら勝てなかった」
「弱者は戦えないと、君はそう言うのかい?」
「そうです、さっきから何なんですか!」
繰り返される問いに苛立ちが募る。
「ごめん、ごめん……けど、君の考え方で言うと僕は戦えない弱者になってしまうね」
「何を言っているんですか、あなた騎士団長でしょう? 弱いわけが……」
フェイさんが魔晶板を見せてくるが眼が見えない事を伝え、口頭で教えてもらう。
「僕のステータスは全て100だ」
驚愕に固まる夏樹。弱体化した夏樹よりも弱い。
「君は『見えない数値』を考えた事はあるかい? 所謂、経験値や技量とか曖昧なものの事だよ。 自分で言うのもなんだけど、僕はそれが高いから団長が務まるのさ」
経験値……技量……どれも夏樹には足りないものだ。
「それに、勇者の力は元々、君のものではないだろう? この世界に来て、偶然あることの出来た曖昧で不安定な力。 本来、普通の人間にそんな力は無い。 それでも何かを護りたい、何かを得たいから強くなる、強い人がいる。 勇者じゃなくても強い人は沢山いる。 君自身の力はどうなんだい?」
この異世界に来て、追われるように戦い続けていたから、自分自身の力を鍛える機会いはほとんど……いや、勇者の力に頼りきっていた、依存していたのは事実だ。
「思い当たる節が多いようだね……幸か不幸か君は立場上、多くの強者に出会ってきたはずだ。 その者達がどう戦っていたのかを振り返ってみるといい、良い手本になるだろう」
暗殺術を行使して暴走した夏樹を止めてくれたガハルド、足りない部分を互いに補う事で格上と戦っていたキカルダさん、ステータスが低いにも関わらず、騎士団長を務めているフェイさん……色々な人が頭を過ぎる。
「なんで、そんなに俺の事を考えてくれるんですか……今更かもしれませんが、勇者なんて荒唐無稽な話を受け入れてアドバイスまで……」
「……君が僕と同じ弱者だから。 僕も思い悩んだし、負け続けたからかな。 単なるお節介だよ、でもね、忘れないで欲しい。 弱者には弱者の戦い方があるってことを」
「弱者の戦い方……」
「そこで君に1つ問いたい。 君はどうしたい?」
「どうする……俺は……俺は強くなりたい」
「何のために?」
「……仲間を守るために! 強くならなきゃいけない、誰も失わないためにもっと強く!」
「ふふふ……合格だ。 君に弱者の戦い方を教えよう、僕に着いてくるかい?」
「はい!」
フェイの後に続き、部屋を出ていく。
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