第23話 離別
「ふふふ、いいわぁ……なかなかやるねぇ。 けど、まだまだ使いこなせてないみたいだねぇ」
襲い掛かる炎蛇をスロースは槍で軽くいなしていく。
「くっ……まだです! ーーー
炎蛇の口から濃密な火炎ガスが噴出される。スロースは槍を円状に回転させ、ガスを散らしていく。
スロースがエインに切迫し槍を突いてくるが、炎蛇が割り込み防ぐ。
「キリがないねぇ……そろそろ終わりにしようか」
スロースが片手で振っていた槍を両手に持ち直し、半身に構え魔力が槍に集中する。
それを見たエインの体は魔力を高め、とぐろを巻く炎蛇の口内輝き始める。
「ーーー
空間が歪むほどの魔力を込めた槍と白い熱線が激突する。
「はぁ……はぁ……やったの……?」
炎蛇は消え、魔力欠乏で跪くエインが煙を睨む。
「うそ……そんな……」
徐々に煙が晴れていき、服の至る所に煤がついただけで、大きな外傷が見られないスロースが姿を現す。
「いやぁー、こんなに強いなんて驚いたよぉ。 さすがは勇者君のお仲間さんだねぇ……そんな君に免じて2人とも生かしてあげるよぉ、その代わり、勇者君をちょっとだけ弄るねぇ」
「弄るって……何を……!」
スロースが倒れている夏樹に近づき、手に持つ晶石をかざす。
「ーーー
夏樹の体から光の粒が無数に浮かび晶石に吸収されていく。
「さて、こんなものかなぁ……ふふふ、起きた彼がどんな顔をするのか見れないのが残念だなぁ、じゃあね、魔法使いのお姉さん」
「待ちなさい……夏樹さんに何を……」
去っていく彼女の後ろ姿を見ながら、エインは意識を落とした。
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「ここは……どこだ」
ベッドから上体を起こして、周囲の気配を探る。
コンコンッと軽快なノック音と共にエインが入ってくる。
「目を覚めしたんですね! 良かった……どこか痛むところとかありませんか?」
「あぁ……エインも無事で良かった。 なぁ、あの後、何があったんだ」
エインが事の顛末を語る。
「そうだったのか……エインに助けられたな、ありがとう」
「いえ、私は勝てませんでした……もっと強くならないといけませんね。 夏樹さん、最後に相手が夏樹さんに何かをしていました、何か異変はありませんか?」
「いや、特に無いように思えるが……魔晶板で確認してもらえるか?」
エインが持っている魔晶板を使用し状態を確認する。
「え……これは……」
「なんだ、どうしたんだ、何かあったんだろう? 教えてくれ」
エインは躊躇いがちに話し始める。
平田夏樹 16歳 男 レベル89
称号:異世界人
筋力:189
耐久:189
敏捷:189
魔力:189
耐性:189
状態:盲目、???
固有スキル:神眼
「……は?」
部屋の空気が凍りつく。
ステータスが大幅に下がっている。いや、そんな事より……
「勇者の称号が無くなってる……なんで……どういう事だよ……俺は……」
「最後にスロースは
「ふ……ふふふ……あはははははっ! そうか、俺は勇者じゃなくなったんだな。 じゃあ、今の俺は何だ?」
「一時的に失っているだけです、夏樹さんは変わらず……」
「変わらない!? 何が、どこが変わっていないって!? このステータスで、俺に何と戦えと? それこそ王都襲撃の時と同じだ、俺は魔王どころか、下っ端の魔族にすら手も足も出ない弱者になった! それでも俺に勇者であれと、エイン、お前はそう言うのか!」
「いえ……そういう訳では……」
勇者という役割、拠り所を失い、心がひび割れていく。
「なぁ、エイン。 勇者じゃない俺に居場所はあるのか? 俺が勇者だったから一緒に旅をしていたんだろう? 俺はもう勇者じゃない、エインが一緒にいる意味、いや、義務はもう無くなったぞ、良かったな」
「義務だなんてそんな……私は良いなんて思って」
「もういい……出て行ってくれ。 俺は勇者じゃない、最初から勇者じゃなかったんだ……」
「夏樹さん……ごめんなさい……」
エインは消え入りそうな声音で呟き、静かに部屋を出ていく。
「俺はどうすればいい……俺はこれから……」
独りという苦味が、ひび割れた心に溶け込み悲鳴を上げる。
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