第21話 悪意の足音
武具屋を後にした夏樹とエインは依頼場所である鉱山へと向かった。
鉱山は町から徒歩で1日ほどの距離。途中で野営した後、現地へと到着した。
「グキャアァア!!」
ロック・リザードを前に左手にメリケンサックを嵌め、右手に剣を持ち構える。
ロック・リザードの攻撃を剣でいなしながら、空いた胴体に左拳を叩き込む。鉄のように硬い鱗は容易く打ち砕かれ、1撃で動かなくなった。
「想像以上にヤバいな、これ。 剣じゃ、浅い傷しか付けられないのに、1撃か……」
その後、出現したロック・リザード、ロック・バードをそれぞれ左拳の1撃で沈め、討伐依頼数に到達した。
「よし、これで目標数終わったし、帰ろうか」
帰りも同じく途中で野営して、町へと到着した。
「はい、依頼完了です。 お疲れ様でした」
受付嬢から報酬を受け取った直後、バンッと勢いよく扉が開かれ、人がギルド内に倒れ込んできた。
「おい! どうした! 何があった、何で血まみれなんだ」
近くにいた冒険者が声を掛ける。
「坑道でリザード……の討伐依頼を……してたら、いきなり……アースドラゴンが出てきやがった」
「アースドラゴン!? そんな奥地でリザードの討伐をしてたのか?」
「違う! 第1区画だ……」
受付嬢から聞いた話では、坑道は広く、入口から順に第1区画から第10区画まで分けられている。坑道奥の第10区画にアースドラゴンがいたはずなのだが……。
本来なら、有り得ない場所での遭遇情報にギルド内が騒めく。
「緊急依頼を出す。 討伐隊を編成しアースドラゴンを討つぞ。 私が指揮をとろう。 参加は最低Cランク以上が条件だ、1時間後に2階の会議室に集合。 ここにいない冒険者達にも伝えてくれ、以上だ」
ギルドの奥から強い気配を放つ男が現れ、そう言った。
受付嬢に聞くと、彼の名前はアーロン、ギルドマスターであり、元Aランク冒険者とのこと。
「どうする? エイン」
「正直、危険だと思います。 アースドラゴンがわざわざ、奥地から出てきたのには理由があると思います。 その理由によっては、より大きな脅威と出会す可能性があります」
「確かにそうだな……けど」
「放って置けませんよね? 私に聞かなくても結局受けるつもりでしょう? いいですよ、その代わり、無茶はしないでください」
エインの心配にお礼を言いながら、受付嬢に依頼受領手続きをしてもらい、2階会議室へと向かった。
1時間後、会議室に集まったのは約20人ほど。アーロンが概要を説明し、先ほどエインが危惧していたアースドラゴン以外の脅威がいる可能性を挙げていた。もっとも、他の脅威は全員想定していたようで抜ける人はいなかった。
その後、各々が使用する武器や使用できる魔法などを共有、1時間後に正門前集合となった。
「夏樹さん……今回の依頼、大丈夫でしょうか」
「不安か? 何が起こるか分からない、全て自己責任が冒険者だろ? まぁ、俺達だって強くなってるし、最悪にはならないんじゃないか」
「んー、そこは嘘でも大丈夫って言って欲しかったですけど、夏樹さんらしいので許します。 そうですね、強くなりました。 もう簡単にはやられませんよ」
ギルドに常設されている魔晶板を使用してステータスを再度確認する。
平田夏樹 16歳 男 レベル89
称号:勇者、異世界人
筋力:990
耐久:990
敏捷:990
魔力:990
耐性:990
状態:盲目、???
固有スキル:神眼
ゴブリン・キングの討伐など、色々な依頼を受けた事でレベルが上がっている。ゴブリン・エンペラーの一件以降、固有スキルのハテナが消え、神眼というスキル名に変化していた。ほぼ間違いなく青い眼のことだろう。
エイン・アスタリア 16歳 女 レベル65
称号:クラウド王国王女
筋力:400
耐久:400
敏捷:400
魔力:1000
耐性:400
状態:――
固有スキル:???
エインのレベルも上がり、魔力が遂に4桁に突入していた。
確認後、エインと必要な物資の買い出しに行き、そのまま集合場所の正門前へと向かった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ーーーグルゥァァァアアッ!!
討伐隊が鉱山到着直後、咆哮が響き渡り、坑道入口より巨体が姿を現す。
「アースドラゴンが坑道から出てきた、作戦通りに行くぞ」
アーロンの指示の下、盾職の冒険者達が前方に並ぶ。その後方で魔法職が魔力を高め始める。
「「「ーーー
無数の火弾が放たれ、着弾と同時に起爆する。
ーーードゴゴゴゴゴゴォォォォォオンッッ!!
立て続けに爆音が響き渡る。
「前衛、前に! 畳み掛けろ!」
アーロンの号令とともに夏樹を含めた前衛職がアースドラゴンに飛びかかる。
魔法によって脆くなった鱗に次々と攻撃を叩きこむ。
ーーーグルゥゥゥアアァァ
周囲の土や石が浮かび上がり、押し固められ複数の岩弾を形成、凄まじい速度で射出してくる。
「うわぁぁぁあ……!」
たった一度の魔法で陣形が崩れていく。
「負傷者を下げろ! 盾職、前衛は前に! 戦線を立て直す時間を稼ぐ!」
怒号のような指示が飛ばすアーロンにアースドラゴンの尻尾が迫る。
「……! しまっ……」
「ぜあぁぁぁぁああ!!」
間に潜り込んだ夏樹の左拳が尻尾を弾く。
「おぉ……すごいな。 助かった」
「困った時はお互い様ですよ、それより指示を!」
アーロンの的確な指示の下、徐々にアースドラゴンを追い詰めていく。
「これで終わりだ! 魔法職放てぇええ!!」
「「「ーーー
爆音と煙が晴れると、クレーターが出来ており、その中央に横たわり動かなくなっているアースドラゴンがいた。
討伐完了と同時に歓声が挙がる。
「気を抜くな! 負傷者の手当てを急げ、動ける者は周囲の警戒を」
出発前、会議室で話したアースドラゴン以外の脅威がいる可能性を思い出し、全員が気を引き締め直した。
しかし、何事も起きず、負傷者の手当ては終了し、
「これよりコパンへ帰還する! 何が起こるか分からない、最後まで気を抜かず行くぞ!」
討伐隊は隊列を組みなおし、帰路についた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「なんだよこれ……」
討伐隊の誰かが溢した言葉が全員の心を代弁していた。
ーーー焼け焦げる臭い ーーー無数の悲鳴
「エイン……一体何が起きてるんだ」
眼が見えずとも予想は付くが確認せずにはいられなかった。
「……コパンの町が火の海になっています」
気づくのが遅すぎたんだ……。
悪意の足音はすぐ側まで迫っていた事に。
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