第20話 新たな武器

「んぅ……」

 左腕に抱きつくエインが身じろぎしているだけだ。決してやましい事はしていない、断じてしていない。

「……おはようございます、夏樹さん」

 甘えるような声で挨拶しながら夏樹の首筋に顔を埋めてくる。

「あぁ……おはよう。 そろそろ離れてほしいんだが」

「んふふふ……何でですかぁ?」

「分かってて言ってるだろ……ったく」

 エインも本気で拘束するつもりは無く、すんなり手を離す。2人は起きた後、身支度を整えて宿の1階へと降りていく。


「昨夜はお楽しみだったようで……」

 女将さん……謀ったな……。

「何の話だか分かりませんが、朝食の準備お願いしますね」

 女将さんが何か言う前にエインを連れて席に着く。

 程なくして、運ばれた朝食を食べる。

「で、今日はどうする? 王都の時みたく、ざっと見て回った後に依頼でも受けに行くか?」

「そうですね、まずは町散策して、その後手頃な依頼を受けましょう」

 今後の方針を話し合い、食べ終わった後にコパンの町を散策。

 王都と比べて人口は少ないにも関わらず、露店が多く、活気に満ち溢れているように感じる。何より大きな違いは、

「獣耳や尻尾があるやつが多いな、あれが亜人か」

「そうです、ガハルドさんが言ってたようにミニエイル王国は亜人差別がほとんど無いですから、住みやすいのでしょう」

「差別ねぇ……どこ行っても、そういう問題は出るもんなんだな」

 見回った後、当初の予定通り、冒険者ギルドへと向かう。


 時間は昼過ぎで、多くの冒険者が既に依頼に出払っているため、ギルド内は閑散としていた。

「無難にロック・リザードやロック・バードの討伐依頼を受けましょうか。 鉱山の地形にも詳しくないですし、あまり難易度が高いと、何かあった時に対応出来なくなりそうです」

 夏樹とエインはロック・リザードとロック・バードの討伐依頼を受注した。

「エインはともかく、俺は戦う手段を考えた方がよさそうだな。 硬いみたいだし、剣で挑むのは不安がある」

「そうですね、武具店を見に行きましょうか」


「……いらっしゃい」

 店の奥から気怠そうな女性の声が聞こえる。

「どれにしますか? 硬い装甲を貫通するって、どんな武器でも難しいように感じますが」

 店内に意識を集中させると、一際、強い気配を放つ武器を見つける。

「これ、いいな」

「え、これ魔物相手に使えるんですか? それに錆びついてますよ。 考え直した方が」

「いや、これで良い。 これだけ纏う空気が違う」

 手に取った武器はメリケンサックだった。本来、対人用の物であり、対魔物用では無い。

「おい、お前、何故それを選んだ」

 さっきまでの気怠そうな雰囲気が吹き飛び、僅かに威圧感を放ちながら店主が近づいてくる。

「上手くは言えませんが、これだけ気配が違うように感じたんです」

「ふん、そうか。 おい、それを貸せ」

 店主にメリケンサックを取り上げられる。

「あ、それ買いますよ?」

「あぁ、だから俺が直してやるよ」

 直せることに夏樹が驚いているとエインが耳元で目の前にいるのは、ドワーフの鍛治師であることを教えてくれる。なるほど、なら大丈夫そうだ。

「このメリケンサックはな、昔、拳一つでドラゴンを殺した化物が使ってた物だ。 そいつが死んだ後、価値の分からねぇ馬鹿が捨て値で売ってたのを見つけて買い取ったんだ。 ちゃんと価値を見抜けるやつに売るため、わざとあんな分かりにくい場所に置いといたんだよ。 このメリケンサックはただのメリケンサックじゃねぇ、今は隠蔽魔法をかけているが尋常じゃない魔力を秘めている代物だ」

 想像以上の化物武器だったようだ。

「1時間程度で済む、それぐらいの時間になったら、また来い」

 町散策に1時間使い、再度武具店を訪れた。

「うわぁ、すごい、見間違えますね。 それに本当に桁外れの魔力を感じます」

 渡されたメリケンサックからは、先程よりも遥かに強い気配を放っていた。

「あのお代は……」

「いらねぇよ、直したのは俺のお節介、それはお前にくれてやるよ。 ただし、粗雑な使い方したら、ぶっ飛ばすからな」

 男勝りな女ドワーフ鍛治師から新たな武器を貰い受け、店を後した。

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