第19話 辺境

 数日後、国境を超えてミニエイル王国のコパンという辺境の町に到着した。

 キカルダさん等は護衛依頼の報告をするためにギルドへと出向くという。エインと相談し、どんな依頼があるのか確認も兼ねて付いていくことにした。

 王都のギルドに比べてやや小さいギルドに到着した夏樹とエインは報告に行くキカルダさん達と別れ、依頼ボードを眺めていた。

「討伐依頼の種類がやや違いますね。 街の近くに大きな鉱山があるせいか、防御力に定評のあるロック・リザードやロック・バードなんかが多いです」

「へぇ、硬いのが多いのか。 結構、苦戦しそうだな、やるなら対策を考えなきゃいけなくなりそうだ」


「何か依頼を受けるんですか?」

 報告を終えたキカルダさんが聞いてくる。

「いや、まだ決めてません。 とりあえず、どんな依頼があるのか確認しにきました」

「なるほど。 夏樹さんもエインさんも強いですし、大丈夫だとは思いますが、鉱山にある坑道奥地にはアース・ドラゴンがいるので、入らない方が良いですよ」

「アース・ドラゴンは魔法を行使するうえに、防御力も高いことでAランクに指定されている魔物ですね」

 キカルダさんの忠告にエインが耳元で補足を加える。

「忠告ありがとうございます、なるべく奥に行かないように気をつけます。 少し話が変わりますが、お勧めの宿はありますか?」

「そうですね、少し値が張りますが、黄昏たそがれ豚亭とんていが食事も美味しくお勧めです」

「黄昏の豚亭……いいですね、行ってみます。 ありがとうございました」

 夏樹とエインは場所を聞いた後、キカルダさん達と別れ、お勧めの宿へと向かった。


 騒がしい……そんな第一印象を抱く。

 宿の1階は食事処となっており、多くの宿泊客が飲み食い騒いでいた。素通りして、受付に向かう。

「いらっしゃい! 黄昏の豚亭にようこそ! 宿泊のお客様かい?」

 元気な声で出迎えられ、やや引き気味に答える。

「えぇ……そうです。 2部屋空いてますか?」

「いや、今の時期は混んでてね、1部屋しか空いてないんだよ」

「1部屋でお願いします!」

 夏樹が別の宿を探すことを考えていると、エインが女将に言った。

「いや、エイン、ちょっと待て……1部屋でいいわけないだろ。 別の宿を探そう」

「私は良いですよ? 夏樹さんとなら」

「女が良いって言ってんだから、ウジウジしてないで男らしく決めな!」

「ぐ……分かった、分かったよエイン。 1部屋でお願いします」

 エインのOKに加えて、女将さんの一押しもあり、最終的に夏樹が折れる形となった。

 女将さんに渡された鍵を持って2階の部屋へと移動した。

「結構、綺麗ですし広いですね!」

「そうだな、女将さんも良い人そうだったし。 キカルダさんにお礼言わないとな」

 もう日が落ちていたため、1階へと降りて夕食を取ることにした。

 夕食は肉の入ったシチューに、柔らかいパン。野菜サラダにチーズとワインだった。

 エインによるとお風呂は一部の貴族しか利用しないようで宿には無いのが普通とのことで、買った湯で汗を流して終了となった。

 その夜、ベッドが1つしか無いため、エインにベッドを譲り夏樹は床で寝ようとしていたが

「そんなところで寝たら、風邪引きますよ」

 エインが夏樹をベッドに引き摺り込んだ。

「ちょ、エイン!? さすがにこれは……」

「ふふふ……諦めてください。 ーーー風錠ウィンドロック

「なっ……! 魔法は無しだろ、魔法は!」

 最初の王女らしい淑女さはどこへ……。

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