第17話 誓いを胸に
ガハルドの問いに答えず、夏樹が切りかかってくる。取り回しの難しい大剣で何とか捌き続けるが、懐に潜り込まれ、掌底で弾き飛ばされる。
「ぐはっ! ぐうぅ……くそ、化物かよ、手も足を出ねぇ」
青い眼でガハルドを見据え、ゆっくりと近づいてくる。
「やるしかねぇか……久しぶりにやるが、しっかりついて来いよ、俺の身体」
大剣を投げ捨て、腰に差していた小刀を抜いた。
ガハルドの気配が薄れていく。
夏樹が踏み込み剣を振り下ろすが空を切る。
即座に身体を反転させ剣を振るうが、身を屈めたガハルドには当たらない。
ピッと浅く夏樹の右脇を切り裂く。
そのまま、より深く踏み込むガハルドを斬り捨てようと夏樹が剣を振ろうとするが、
「ーーーー!」
夏樹の右腕が挙がらない。青い眼でガハルドの小刀を見ると僅かに剣先から魔力が伸びている。切り裂く瞬間に魔力を伸ばし右腕の神経を切ったようだ。
両腕が使えない夏樹は右足で蹴りを繰り出すが、
「ーーー
遅れてやって来たユリンから鋭い雷が放たれ、夏樹の軸となっていた左足を撃ち抜く。
踏ん張りが利かなくなり、体勢の崩れた夏樹に
「目ぇ覚ませ! 馬鹿野郎!!」
ガハルドの渾身の右拳が夏樹の左頰にめり込み、地面に叩きつけられる。
夏樹の青い眼がゆっくりと閉じていき、動かなくなる。
「はぁ……はぁ……手間かけさせやがって。 ったく、絶対に飯奢らせるからな」
そう言って気絶している夏樹の頭を小突く。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あの後、無事ゴブリンの殲滅は終わり、ガハルドのパーティは事情を(夏樹の青い眼や暴走については除く)ゴルバに説明し、一行は王都へと帰還した。
エインは重傷であったが、王都最高と称される治癒魔法使いに診てもらい、僅か1日で歩ける程度まで回復した。
回復したエインとガハルドのパーティ、ゴルバは共に冒険者ギルドへと詳細の報告を行った。その際、ゴブリン・エンペラーの存在を説明、本来なら法螺話と笑われる内容だがエインの言葉は嘘を言っているとは思えず、ギルドは信じた。即座にその内容が世界各国へと伝えられ、警戒が強化されることになる。
依頼達成から3日後に夏樹は目を覚ましたが、提供された物に手をつけず、飲まず食わずの状態が続いていた。ガハルドのパーティがお見舞いに行くが、返答はあるものの、どこか上の空で放心している様子だったという。
ーーーコンコン
「夏樹さん、入ってもいいですか」
エインの声に夏樹の身体が強張る。
エインが返答を待たずに入ってくる。
「エ、エイン……俺は……」
最初の言葉が紡ぎ出せない夏樹。
突然、温かい感触に包まれ混乱する。
これは……何で俺はエインに抱きしめられているんだ?
「夏樹さん、助けてくれてありがとうございました」
「……!! いや、俺は……助けてなんかいない。 むしろ、俺はエインに剣を」
「知っています、全て聞きました。 でもあなたが居なければ、私はゴブリン・エンペラーに殺されていたでしょう。 夏樹さん、あなたのおかげで私は助かったのです、生きているのです」
夏樹の想像していた言葉とは違い、優しく甘やかすような言葉をかけられて涙が溢れる。
「何で……何で……怒らないんだよ、罵倒しないんだよ、おかしいだろう。 そんな良いところだけ拾ってありがとうだなんて……」
「夏樹さん。 私決めました。 もっと強くなります。 夏樹さんを護れるぐらいに強くなります。 だから、夏樹さんも私を護ってください。 護れるようにもっと強くなってください」
エイン……君は一体どこまで……。
「あぁ……分かった。 俺も強くなる、エインを護れるように強くなる。 そう約束する……いや、誓うよ」
俺の唇に柔らかい感触が触れる。
その感触に脳に電撃が走り、頭は真っ白になる。
「ふふふ……頼りにしてます」
エインの声にも嗚咽が混じる。
2人の泣き笑いが部屋の中に静かに落ちて溶けていく。
夏樹の閉ざされた暗闇が少しだけ明るくなったような気がした。
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