第15話 絶望
「偵察はどうだった」
ゴブリンが集落を作っている場所から約1時間程の場所。そこに王都から出発した冒険者達は馬車を止めた。偵察からの報告を聞くため、各パーティのリーダーがゴルバの張ったテントへと集まっていた。
「ゴブリンの数は想定以上。 100匹近くいるうえに、亜種のゴブリン・ナイト、ゴブリン・アーチャー、ゴブリン・メイジが確認出来た」
想定の倍という事実に騒つくが、元より、最低で50と聞かされていたため、すぐに落ち着いた。
「それだけの数がいるなら、希少種のゴブリン・キングもいそうだな。 もし出たら合図を出してくれ、すぐに向かう」
ガハルドが推測を述べた後、救援を請け負うことを宣言した。そのおかげで他のパーティの緊張がほぐれる。
東西南北4つに分かれ、襲撃を仕掛けた。
戦いはAランク冒険者のユリンによる
「行こうか、エイン。 俺らは亜種を中心に狩るぞ」
移動開始直後、夏樹の首元を狙い、矢が放たれるが剣で流す。南西方向に弓を引き絞るゴブリンと目の前に5匹のゴブリン・ナイトが姿を現す。
「エイン、アーチャーを頼む。 ナイトは俺がやる」
「分かりました!」
1歩で距離を詰め、反応出来ていない1体を袈裟斬りにする。即座に、両脇の2匹が夏樹に向けて剣を振り下ろすが斜めに受けることで剣筋を逸らす。そのまま、回旋し2体とも胴体が2つに分かれる。後方に残った1体に向けて再度、踏み出し懐に潜りながら首を凪ぐ。
エインの方を振り返ると、構えていたアーチャー3体が地面に倒れており、肉が焦げたような匂いを感じた。
「ゴブリンの数も大分減ってきたな」
既に夏樹とエインだけで20匹ほど討伐していた。他のパーティがどれほど討伐したかは分からないが、それでもかなりの数を討伐出来ているだろう。にも関わらず、統率個体が見つからない。
「物は試しだ、やってみるか」
初依頼達成後にエインから魔法を1つ教わっていた。眼の見えない夏樹にとって命綱になり得る魔法を。
「ーーー
夏樹の魔力が世界に染み込むように広がる。
「エイン、構えろ。 ゴブリンの集団がこちらに向かってきている。 その中の強い気配が恐らく群れを率いている個体だろう」
「分かりました……っ!」
エインが頷くと同時に夏樹は剣を鋭く一閃。
キンッという音共に真っ二つになった矢が地面へと落ちる。
「来たぞ……」
通常のゴブリンが5匹、ゴブリン・アーチャーが2匹、ゴブリン・メイジが2匹、ゴブリン・ナイトが1匹。その後ろから一回り大きく、他とは一線を凌駕する
「予想通りでしたね、Bランクのゴブリン・キングです」
以前、ガハルドと組んでいた時に戦った事があるエインが話す。
「アーチャーとメイジを任せる。 他は俺がやる」
「分かりました、無茶はしないでくださいね」
「おう」
夏樹は集団へと飛び込む。先頭のゴブリン2匹を横薙ぎに切り払う。片足を軸にしてゴブリン・ナイトの後ろに回り込み、心臓をひと突きにしたと同時にゴブリンの後衛から魔法と矢が夏樹に向けて放たれる。
「ーーー
エインが魔法を行使し、夏樹の周囲に出現した複数の炎が飛んできた魔法や矢を撃ち落とす。
「ーーー
エインが続けて放つ。炎の波がゴブリン・アーチャーとゴブリン・メイジを一瞬で飲み込む。
その様子に固まっていたゴブリンの首を凪いでいく。
あっという間に残りはゴブリン・キングのみとなる。
「グキャギャギャッ、グギャァァァアア!!」
大気が震えるほどの咆哮を放ち、ゴブリン・キングが夏樹に飛びかかる。
飛び込んできたゴブリン・キングの首元に向けて剣を突き出すが、片足をつけて身を翻すことで避け、夏樹の首に向け横薙ぎに剣を払ってくる。
「ーーーッ!」
即座に身を後ろに逸らすことで間一髪で躱す。
その反動を活かして、蹴りを相手の腹に叩き込む。
「グギャッ!!」
後方に大きくゴブリン・キング飛ばされるが、しっかり着地し勢いを殺す。
「思っていたより強いな、Bランクって言われるだけはある」
「ーーー
再度、飛び込むゴブリン・キングの行く手を阻むように炎の壁が出現し急停止を要される。その直後、ゴブリン・キングの足元に魔法陣が出現し炎が噴き出し纏わり付く。
「グギャァ……グギィャアァァァア!!」
苦痛に耐えるようにふらつくゴブリン・キングの後方から夏樹が近づく。
「……これで終わりだ」
振り返ったゴブリン・キングが剣を払うが、最初の勢いは既に無くなっていた。それを斜めに受け流し首を凪いだ。首を失ったゴブリン・キングの巨体はゆっくりと傾き仰向けに崩れ落ちた。
「ふぅ……お疲れさん」
「お疲れ様です。 久しぶりにたくさん魔法を使いました」
「そっか、下級魔物ばっかりだったもんな。 とりあえず、ゴルバに報告しに行くか」
「そうですね。 後は残党狩りなると思いますし、終わるのも時間の問題かと」
報告に行くために2人揃って歩き出した直後……。
「……キサマガ、ユウシャカ」
突然、片言の言葉が聞こえ、勢い良く振り向く。
「なんだ、あいつは……」
ゴブリン・キングとは比べ物にならないほどの
「あ……そんな、あれは……」
「知ってるのか、エイン、あいつは何だ」
「キングの上、ゴブリン・エンペラー……伝承に残ってる特徴と一致します」
ゴブリン・エンペラー……以前、エインが話していた400年前に出現した化け物。なんでそんな奴がここに……。
「ーーーッ!!」
瞬きの一瞬で目の前にいた。
反射的に剣を振るうが空を切る。
後ろから左腕に蹴りを叩き込まれ、バキベキッと音共に横に吹き飛ぶ。
「……がはっ……ぐ……あぁ……」
数回バウンドした後、ようやく勢いが止まる。
「いやぁっ!」
エインの悲鳴が聞こえ、意識を向けると首を掴まれ持ち上げられていた。
ゴブリン・エンペラーがゆっくりと空いている手を引く。
凄まじい悪寒が全身を駆け巡る。
「くそ! やめろ! やめてくれえぇぇええ!」
夏樹の悲痛な叫びは届かず、無情な刺突がエインを貫く。
「あ……あぁ……あぁぁぁぁああ!!」
ーーードクンッ
閉ざされた青き
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