第11話 異変

 「グルゥアァァァァアアッ!!」


 「なんで、こんなところにブラッド・ベアがいるのよ!」


 4人の人間と体長5mほどの巨大な熊が対峙していた。1人は蹲っており、3人が守るようにして立っている。


 「グルアァァア!」

 ブラッド・ベアが1人に飛びかかる。それを盾で防ごうとするも拮抗したのは一瞬のみ。1人が弾き飛ばされ直後、左側から剣を振るが、驚異的な反応速度で振り向いたブラッド・ベアの一撃を喰らってしまう。残った1人が魔法を完成させ炎を放つが……。


 「ガァッ!!」

 咆哮一発、炎がかき消される。動きを止めてしまった最後の1人が下から爪で切り飛ばされる。そして、蹲っている1人に近づいていく。


 「やめて!! いやぁ、逃げてぇ!! リサーナァ!」

 無慈悲な一撃が振り下ろされた時……。


 ザンッ!!

 「グ……グルゥアァァァァアア!!」

 ブラッド・ベアが振り下ろした右前足が肩から切り飛ばされる。


 「あっぶねぇ! 間一髪間に合った……」

 夏樹は振り下ろした剣を引きつつ、蹴りを相手の腹にぶち込む。


 「グルァッ!?」

 盛大に吐血するブラッド・ベア。ふらつきながらも夏樹に襲いかかる。


 「視界が狭まってるぞ」

 ゴワッ!

 ブラッド・ベアの背後に巨大な炎が迫っていた。

 背後に回ったエインの獄炎ブレイズが直撃する。


 「グルゥアァァァァアア……グルァ……グァ……」

 炎に包まれ、のたうち回った後に動かなくなった。


 「ふぅ……エインの獄炎ブレイズで即死かと思ったんだが、意外と耐えたな」

 「ブラッド・ベアはCランクの魔物ですよ? 私と1つしかランク違わないくらい強いですから」

 夏樹の感想に対してエインがブラッド・ベアの強さを説明する。


 「おい、お前ら大丈夫……じゃないな。 1人危ない状態だな」

 夏樹が4人を感知し、虫の息になっている1人を指す。


 「あぁ、助けてくれてありがとう! お礼はまた今度にしてほしい。 早くしないとリサーナが……!」

 そう言って、背負って運ぼうとする。


 「怪我人を無理に動かしてはいけませんよ。 その方は私が見ましょう。 上級治癒アドバンスヒール


 エインが手をかざすと、リサーナが淡い光に包まれる。

 「傷が一瞬で治ってく、上級治癒アドバンスヒールなんて初めて見た……」

 3人が驚いている感じが伝わる。


 「傷は塞ぎましたが失った血は戻せません。 王都に戻って安静にさせてあげてください」

 「すげぇな、エインは治すことも出来るのか」

 「ふふふ……魔力特化型ですから、大抵の魔法はつかえますよ?」


 「ありがとう……本当にありがとう! あ、自己紹介をしていませんでした。 私はロユナ、こっちの大きいのがシセナ、小さいのがキフィ、治していただいたのがリサーナです」


 ロユナ達はCランクパーティだ。本来、ブラッド・ベアを十分討伐出来る実力がある。しかし、魔の森の浅い所で依頼があったため、ブラッド・ベアは出ないと油断していたこと。さらに、奇襲を受けた時にリサーナがやられたことで連携が崩れてしまったことにより危機に瀕していたのだという。


 「ラーヤに怒られますね、確実に」

 「あ……いやぁ、ラーヤさんのお説教怖いからいやぁ」

 エインが楽しそうに言うと、キフィが怯えている。そんなに怖いのか、過去に何があったんだ……。


 「あの……あなた方は一体」

 シセナが夏樹達に問う。自己紹介がまだだった。


 「俺はナツキ、眼が見えないGランク冒険者。 で、こっちがエイン、Bランクの魔法使いだ」


 「え……Gランク!? 眼が見えない!? でもさっき、ブラッド・ベア相手に無傷で……。 それにエインって、エイン王女様!? 申し訳ありません! 多大なご無礼を」


 夏樹の自己紹介に混乱しつつも、3人はエインの前に跪く。


 「やめてください。 今の私はエイン王女ではなく、冒険者のエインです。 礼節など気にしなくても構いません。 見てください、夏樹さんを。 私の事を呼び捨てですよ?」

 「いや、それはお前が言ったから」

 「今度はお前ですって、聞きました? 皆さん。こういう人もいるのです、気にしないでください」

 上手いこと出しに使われたようだ。しかし、そのお陰か3人の固い緊張感は緩和していた。


 「さて! そろそろ帰りましょうか。 リサーナさんを休ませてあげなくてはなりませんし」

 エインの言葉に全員が賛同し、一緒に王都へと戻るのであった。

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