第7話 心を前に

 「……すいません、意味が分かりません」


 苦笑い気味に返す。


 「……あ、えっと、すいません、突然過ぎましたね。 夏樹様がこの世界にいらしてから、すぐに魔族の襲撃がありました。 そのせいで夏樹様に、この世界の事や王都の事をお話しする機会が無かったので……」


 確かに来て早々、酷い目に遭って、考える暇もなかった。


 「そういう事でしたら、是非お願いしたいです」


 「やった!! 行きましょう! すぐ行きましょう!」


 興奮気味に話すエイン王女に引きつつ、大事な確認をする。


 「もう少しで日が落ちますし、別日にしませんか? それに、今は魔族の襲撃で復興中ですよ。 王族であるエイン様が遊んでいるところなど見られたら、何と言われてしまうか分かりませんよ」


 そんな懸念を夏樹が話すと……。


 「大丈夫ですよ、行っていただいて。 勇者様のご協力のおかげで復興作業の大部分が終わっています。 エイン様も働き詰めですし、羽を伸ばす機会が必要でしょう」


 と、いつの間にかいたレルさんが話す。

 いつからそこにいた……見えないとはいえ、勇者である俺に音も気配も感じさせないとか、本当に何者なんだ。


 夏樹がレルさんのスペックの高さに戦慄していると、エイン王女が夏樹の手を取る。


 「では、明日の午前9時、大広場の噴水前に来てください。 遅れたら許しませんからね!」


 「分かりました……善処します」


 エイン王女の勢いに押される形で了承し、今日は解散となった。


 自室へと戻り、再度、襲撃を思い出す。


 日本人で戦闘経験がない俺が、あれだけ戦えたこと自体が奇跡だ。団長との手合わせもそうだが、何故、あれほど自分の身体が動けたのか。剣で攻撃を受け流すなんて芸当、出来ないはずなのに。


 極め付けは、あの青い眼だ。突然、視えるようになったうえに、分からない言葉を自分の口から発していた。そう、あの時俺は、自分の身体を自分で動かしていないのだ。


 あまりに不可解な感覚……。自分の身体が自分でないような感覚。例えるなら、別の人間がプレイしているゲームを見ているような感覚。


 あの状態になる前に、記憶にない記憶が頭に浮かんだ。あれは何なのか、彼女は一体……。


 「だーーっ! もう、いくら考えたところで答えが出るわけねぇだろ。 何もヒントが無いんだ……それに、記憶の彼女は、いつか届くと言ってた。 どちらにせよ、目の前のことで精一杯なんだ、気持ちを切り替えていかなきゃな」


 自分の心に区切りをつけて、見えない未来へと向き直る。


 ……あ、俺、時計見えないわ。

 どうしよう、集合時間、守れるかなぁ……。

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