改めて魏志倭人伝を読み解く ー 有象無象の珍説奇説を木っ端微塵に蹴散らす

幸田 蒼之助

謎解きを始める前に

なぜ、謎なのか

 我が国の古い歴史書と言えば、皆さんも学校で教わった通り「古事記」と「日本書紀」です。

 ただし、実はもっと古い歴史書も存在します。古史古伝と呼ばれる複数の古文書です。


 日本書紀を読むと、それら複数の古文書を参考にしつつ編纂された事が解ります。

「一書に曰く……」

 として、

「ある古文書にはこのように書かれている。またある古文書にはこのように……」

 という具合に、多数の古文書を並べつつ、1つの歴史的事実を複数の記述からピックアップして、より客観的より正確に記そうと努力した痕跡が見てとれます。ですから古事記や日本書紀が日本最古の歴史書ではない、という事実が明白なのです。


 但しそれらの古文書は天武天皇以降、朝廷が度々お触れを出し没収、抹殺されてしまいました。

 何故ならば、そもそも天武天皇が歴史書編纂を命じた目的が、

「諸豪族達がめいめい好き勝手に、様々な歴史を書き残している現状は好ましくない。大いに問題である。だから朝廷が国家事業として歴史書を編纂し、それを正史と定めるべきだ」

 というものだったからです。なので古事記及び日本書紀以外は既に抹消され、現存していないことになっています。


 いやいや、実は現存していると考えられます。それこそが前述の古史古伝です。皆さんも竹内文書や富士宮下文書、先代旧事本紀大成経等といった名前を聞いたことがあるでしょう。

 もっともそれらは様々な事情や思惑から、日本の歴史学者達は、

「古史古伝は偽書だ」

 と一律ニセモノ扱いしています。


 そういう状況を踏まえてもなお、不思議な事があります。つまり古事記や日本書紀に、敢えてそれら古史古伝を加えたとしても、

「卑弥呼邪馬台国の歴史について、我が国の諸歴史書には一切触れられていない」

 という点です。これは正に、我が国の古代史における最大のミステリーと言えるでしょう。


 卑弥呼邪馬台国の歴史は、有名な三国志のうちの「魏書」30巻、「烏桓うがん鮮卑せんぴ東夷とうい伝」の中に「倭人伝」として詳述されています。

 全文現存する古文書としてはこれが初出で、以降リリースされた後漢書や晋書、宋書、隋書等にも、それを下敷きにしたらしい邪馬台国の記述が見られます。大陸の各王朝が、海を隔てて向かい合う日本の邪馬台国について、長らく重要視していた事がよく解ります。

 にも関わらず、我が国の歴史書には、何故か卑弥呼邪馬台国の記述が存在しない……らしいのです。だからミステリーなのです。


 そこから2つの可能性が考えられます。


 1つは、

「卑弥呼、或いは邪馬台国という人名や国名が登場しないだけの話であって、実は我が国の歴史書にも別名等で登場しているのではないか?」

 という可能性です。

 そこで昔から、古事記や日本書紀をとことん分析し、誰が卑弥呼なのか、邪馬台国はどこにあったのか……を様々な人々が研究しています。しかし未だ、よく解らないままです。どれもこれも決め手に欠けるのです。


 もう1つは、

「卑弥呼邪馬台国は、実は日本以外に存在したのではないか? 魏志倭人伝の記述は日本の事ではなく、実は他国の事ではないか」

 という可能性です。

 それが正しければ、確かに我が国の歴史書に全く記述が無いのもうなづけます。


 さて、どちらが事実なのでしょうか。

 以降、卑弥呼邪馬台国について、再度論理的に「謎解き」していきたいと思います。

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