新たなアーティファクト
第31話「帰還」
第六層最初のモンスターを倒した俺達は、無事第五層『魔女の指抜き』に戻ることが出来た。
もちろん、神話の怪物としか思えないミーノータウロスの戦利品も回収してある。
戦利品は、ミーノータウロスの角、歯、骨の一部、皮膚の一部、血液、
それから、
別の
「ここまで運んでしまえば、あとはそんなに難しくないだろう」
「ははっ、慎重な兄ちゃんがそんな事言うなんて思わなかったな」
「いや、もちろん第五層がそんなに簡単だとは思ってないさ。だが第五層では、もう見たこともないモンスターに出会うことはめったに無い。それなら知識で対抗ができるだろう? 頼りになる仲間もいることだしな」
「そうですにゃー。第五層であれば、大迷宮ギルドには長年の情報蓄積がありますからにゃー」
「それに何より、俺とアミノ嬢ちゃんのアタッカーコンビは第五層レベルパーティの中でも屈指だぜ」
エゼルリックは胸を張る。アミノがまんざらでもなさそうに笑顔を返す姿に、俺は醜い嫉妬心が湧き上がるのを感じ、慌てて顔を伏せた。
絶対に嫌な顔をしているはずだ。こんな顔、アミノに見られたくない。
顔を伏せたまま不必要にリュックの紐を締め直し、重さのバランスを確認する。
心のささくれが穏やかになり、いつもの表情を取り戻せたと確信できるまで、ゆっくりとリュックを背負う準備を続けた。
「……よし。とにかく絶体絶命の窮地は脱したんだ。早く仲間たちを地上に運んでやろう」
重いリュックを背負い、ミシミシと肩に食い込むベルトを掴んで立ち上がる。
ふと落とした視線の先に、見慣れない
ギフトの能力には心の持ちようが関係するのか、その荷物は、さっきまでよりずっしりと重く感じた。
◇ ◇ ◇
ギルドの連絡員を通じて、世界初の第六層
待ちかねた俺達は、アミノとロウリー、マグリアを引き連れてギルドへ赴く。
通された先は、普段一般のギルド員が入ることのできないアーティファクト鑑定室の奥、主席鑑定員の個室だった。
一つ一つ丁寧に木箱へ収まっている指輪を見て、思わず俺の頬もゆるむ。
ロウリーとマグリアは、笑いをこらえているような顔で視線を交わし、そわそわと落ち着かない様子でアーティファクトを見回した。
「では全員揃ったようなので、鑑定の結果をお伝えしよう」
腰の曲がった白髪の鑑定員が、手元の資料を一枚めくる。
その言葉に周囲を見回した俺は、思わず鑑定員の言葉を遮った。
「いやいや、ちょっとまってくれ」
「……なにかね?」
「まだ全員は揃ってないんだ。イソニアとエゼルリックが――」
今度は鑑定員が、俺の言葉を遮る番だった。
軽く手を上げ、鋭い瞳で俺を睨む。
ふうっとため息をつかれ、俺はその先の言葉を言えなくなった。
「今回は【運び屋】パーティのアタックであり、その二人は自分たちの所属するパーティメンバーの救出のため、キミたちに協力したと。そう聞いているが?」
「……まぁだいたいそんな感じだ」
「であれば、パーティメンバーの救出を終えた時点で、報酬は支払われたものと考えるのが一般的だろう」
「いや、しかし」
「第六層探索についてはまだギルドの管理下にある。アーティファクトの分配について、パーティ一人につき一品は保証されているが、それ以外は基本的にギルドで買い取ることになる。……ギルドとしては分配対象を不用意に増やすことを許可することはできない」
話は終わりだとでも言うように、鑑定員は書類に目を落ろす。
反論しようとした俺の肩に、マグリアの手がぽんと置かれた。
振り返る。頬に肉球がむにっと刺さった。
「あんまり無理言うもんじゃないにゃ」
無理を言っているつもりはないのだが、マグリアは俺の肩越しに鑑定員へ向けてニッコリと微笑む。
そのまま、俺だけに聞こえるように小声で「あまりごねると、没収もありえるにゃん」と続けた。
ハッとしてアミノに視線を向ける。その不安げな表情を見て、俺は言葉を飲み込んだ。
今回の探索は特例中の特例だ。本来ならば第六層どころか第五層の探索も許可されない俺たちだが、トップレベルパーティの回収という目的のために、無理を通してアミノたちを帯同させたのだ。
実際俺たちに許可されたのは『回収』だけで『探索』はその限りではない。
マグリアの言うとおり、認可外の探索により得られたアーティファクトは、全て没収されてもおかしくはないのだった。
それが通常の探索と同様に俺たちの所有権が認められたのは、今回のアタックにアミノとロウリーというギルドの広告塔とでも言うべき有名人が居たことが大きい。
しかしその特例も、ゴネればいつでも取り消されるような状況でもあった。
「……失礼。わかりました」
しかたなく引き下がる。ロウリーが呆れたようにため息をついた。
それを合図に、鑑定員は資料の一ページ目に指を走らせ、読み上げた。
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