第六層への道程

第23話「ファーストアタック」

 俺たち【運び屋】のパーティが第一層での探索にも慣れ始めた初夏。

 第五層パーティの一部、大迷宮探索ギルドから許可を受けた数組が、満を持して第六層へのファーストアタックを行ったという噂が流れた。

 その第五層パーティの中には【銀翼ぎんよく】の名前も上がっている。

 俺は、今日の分け前を分配しているときに、初めてその噂を聞いた。


「ちぇ~、あたしたちが鍵を見つけたのに。なんかずりぃよなぁ」


「仕方ないだろう。俺たちはまだ第一層レベルのパーティなんだ。一気に第六層なんか許可が下りるわけがない」


「まぁそれは仕方ないにしてもにゃ。アミノにゃんには事前に連絡くらいあってもバチはあたらないのにゃん」


 みんなの視線が、自然とアミノへ向かう。

 ついに第六層へと人類が歩みをすすめるという話を聞いて、彼女は純粋に瞳を輝かせていた。


「なぁ、アミノはいいのかよ? 死んだ兄ちゃんの夢だったんだろ?」


 ロウリーの問いかけに、夢見るように微笑みを浮かべていたアミノは、現実に引き戻された。

 みんなの視線に驚いたような表情を見せ、少し考えたあと、一言一言を噛みしめるように口を開く。


「兄の夢は、『人類を未踏の世界に導くこと』でした。最初にその世界を見るのがわたくしかどうかは問題ではありません。……でもそうですね、いつか、わたくしも第六層へ……兄が夢見た場所へ行ってみたいです」


 アミノの瞳はあいかわらず美しい。そしてその心も、姿と同じように完璧に美しかった。

 彼女の願いは叶って欲しい。

 いや、叶って然るべきだ。

 もし、それが難しいのであれば――。


「――俺が」


「……はい?」


「俺が連れて行く。心配するなアミノ、必ず連れて行くさ。お前自身が切り開いた人類の新たな最果て……第六層に」


「……ベアさん」


 アミノの美しい笑顔が俺を見ていた。

 騒々しい酒場の喧騒が遠のき、世界で唯一人、アミノだけが存在しているようだった。


「っかー! 男だな、兄ちゃん!」


「にゃははっ。まぁにゃーたちは若いですからにゃ。きっといつかはたどり着けますにゃん」


 三人の反応に、俺は急に恥ずかしさを感じて、額から汗が吹き出た。

 袖口で顔を拭い、水を飲む。

 みな口々に将来の夢を語って、わいわいとにぎやかに食事を摂る俺たちのテーブルに、突然見知った顔が訪れた。


「ベアさんっ!」


 イソニアだった。【銀翼ぎんよく】パーティの聖職者、あのパーティの中で唯一話の通じる相手のイソニアがそこに立っている。

 だが、緊迫した表情の彼女は、血と泥に塗れた僧衣のまま、崩れ落ちるようにテーブルに手をついた。


「どうした、血相を変えて?」


「ベアさん! 助けてください! ……あなたでなければできないことなんです!」


 イソニアを含め、【銀翼】パーティは第六層へのアタックを行っていたはずだ。

 その彼女が、一人ここに現れた。

 その事実だけで、俺たちは大変なことが起きているのだと感じることができた。

 酒場にも、次第にざわめきが広がってゆく。

 イソニアのあとから現れた大迷宮探索ギルドの職員に連れられ、俺たち【運び屋】パーティは、ギルドの奥にある大きな個室へと向かうことになった。

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