第22話「お説教」

「アミノ、一人で戦っているわけではないんだ、つねに仲間の位置は把握しておかないとな」


「はい。すみません」


「ロウリーもだぞ」


「うう、肝に銘じるよ」


「それとアミノ、もう一つ。迷宮の探索は長丁場だ。相手のダメージをよく見極めて、余分な力は使わないことだ。今回インジェクションは使う必要がなかっただろう?」


 やっと一息ついたアミノとロウリーに、先程の戦闘の問題点を説明していく。

 素直に耳を傾ける二人に笑いかけ、洗いたての髪の毛に新しいタオルをふわりと載せた。


「さて、さっきの話の続きだ。冒険者が大迷宮へと潜って、アーティファクトが発掘された国は、経済的に豊かになる。そこからだな」


 くしゃくしゃと髪の毛の水分を拭き取る。

 楽しげなアミノとロウリーの笑い声が、小さく響いた。


「俺たちの住むアングリア王国ではおこなっていないことだが、七王国しちおうこくの他の六つの国では、冒険者の半数以上は国営事業としてのパーティなんだ」


「国営……」


「国を豊かにするための公共事業にゃん。国が有望な冒険者を雇い、育成し、送り出すのにゃ」


「そうだな。他国では才能のある子どもを国立の学校に呼び寄せ、英才教育を施したりもしている」


「え~?! じゃああたしたちも他の国だったら冒険者として優遇されたのかよ~」


「そうだな。ロウリーやアミノみたいにギフトを持っていたら、まず間違いなく英才教育だ」


「うらやましいです!」


「そういいことばかりでもないにゃん。国立の冒険者学園は、ぎにゃ~! って叫びたいくらい厳しいらしいですにゃ。脱落して放逐されるもの、訓練で命を落とすもの、逃げ出すもの。どんどん人が減って、ちゃんと冒険者になれるのは半分くらいらしいにゃん」


「えっ?! 死ぬまで訓練やんの?!」


「それは……嫌ですね」


「うん。まぁつまり、国を豊かにするために、国策として大迷宮の探索を行っている。そこでアーティファクトを失うことは、俺たちみたいに『損したな~、もったいなかったな~』じゃ済まないわけだな。なにしろ彼らにとっての探索は、国の威信を駆けたおこない、つまり――」


「――戦争、みたいなものですにゃん」


 マグリアの発した『戦争』と言う単語に、アミノたちの笑顔が凍る。

 少し刺激が強すぎたかもしれない。アミノたちの髪から手を離した俺は、リュックから甘いパンを取り出して、三人に配った。

 小さく固いパンを、彼女たちは美味しそうに頬張る。

 笑顔の戻ったアミノたちの姿に、俺も思わず笑みがこぼれた。


「まぁ問答無用で戦闘になるようなことはまずない。特に、ここみたいな低層ではな。それでも、第五層へ直行出来る昇降カゴを持たない国の探索は、下層へ進めば進むほど、かかる費用が肥大化し、戦いは命がけになり、アーティファクトの価値も上がる。そんな時、他国の冒険者はモンスター以上に恐ろしいものになると覚えておくことだ」


「なにしろ、人間並に罠もはれば魔法も使う。はてはギフトすら持ってる『敵』ですからにゃあ」


 甘いパンを食べ終えて、指先をペロペロと舐めながら、マグリアは目を細める。

 決意を新たにしたらしいアミノとロウリーの髪をもう一度くしゃくしゃと撫でて、俺は立ち上がった。

 もしそんな事になっても、必ず俺が助ける。

 戦闘にむいたギフトの一つも持たない俺だが、命に変えても。

 そう心に決意を秘め、俺は先頭に立って歩き始めた。

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