第五層ガーディアン
第13話「魔女の指抜き」
太陽の光も届かない第五層の
陰鬱な紫の花を蹴散らし、左右に細く束ねられた
その視線の先では六本足の巨大な獣が、赤いたてがみを逆立て、咆哮していた。
「よっ!」
突然、獣の足元に、乱雑に切りそろえられた金髪の少女が姿を表す。
さらなる咆哮。迷宮内の空気が震える。
ロウリーを追いかけようとした獣の進路に、アミノが体を滑り込ませ、パイルバンカーを突き出した。
その
ロウリーの突き刺した槍の傷口から、血が吹き出した。
追撃のパイルバンカー。
弧を描いて襲いかかる鋼鉄の塊を、獣は飛び
パイルバンカーは床を付き刺し、岩とジギタリスを宙に舞わせた。
「兄ちゃん次っ!」
「おう! 頼む」
「任せとけって!」
ロウリーに促され、リュックの中から鋼鉄の槍をまた十本ほど取り出す。受け取るが早いか、ロウリーの姿は煙のように姿を消した。
その姿を見送った俺は、リュックからクロスボウを取り出し、及ばずながらも獣へ向けて連続で射る。
獣のたてがみに何本か突き刺さったが、獣はぶるんと身震いし、なんでもなかったかのように矢を振り落とした。
俺の攻撃が効かないことは織り込み済みだ。それでも、矢をつがえ直す間を惜しんで、次のクロスボウをリュックから取り出して射る。
うるさそうに首を振った獣の視線が俺に向いた。
恐怖だった。見据えられただけで全身に震えが走る。一番離れた場所にいる俺でもこうなんだ、お互いの武器が届く範囲で対峙しているアミノや、相手の懐に飛び込んでゆくロウリーはどんな思いなのだろうか。思わず叫びだしたくなるのを精一杯の自制心でこらえ、俺は次のクロスボウを取り出してまた矢を射た。
「そらよっと!」
また獣の足元から声が上がり、鋼鉄の槍が突き刺さる。
咆哮とともに獣の足が振り上げられ、身をかわしたはずのロウリーの背中を鋭い爪がかすめた。
「うあっ!」
「「ロウリー!」」
背中から血しぶきを舞わせ、ロウリーが床で跳ねる。
アミノはパイルバンカーで獣に突きかかり、俺は何も考えずにただ、ロウリーのもとへと走った。
パイルバンカーを飛び上がってかわし、獣はロウリーにとどめを刺そうと襲いかかる。
ほんの僅かな差でロウリーの上に覆いかぶさった俺は、リュックへと手を突っ込み、指先に触れたものを片っ端から引き出した。
鋼鉄の槍、ショートソード、鉱石類、鉄柵、棍棒、
雑多な品物が、俺とロウリーの周囲に勢いよく飛び出し、壁を作る。ロウリーを潰そうとした獣の前足を、床との間につっかえ棒のように挟まったものたちが、大きくきしみながらも受け止めた。
「【運び屋】さん! ロウリーを!」
言われるまでもない。ぐったりとしたロウリーを抱えて、転げるように逃げ出す。
前足に突き刺さった槍や剣に、獣は棹立ちになって咆哮した。
その背中へ、アミノのパイルバンカーが突き刺さる。硬い毛並みに弾かれそうになる武器を両手で抑え込み、アミノはさらなるギフトを発動させた。
「
髪と同じ、
次の瞬間、パイルバンカーの機構部分から重低音が響き、先端が一メートル以上も打ち出された。
ガシャン、ドスンと言う異様な音に、ロウリーを抱えた俺は振り返る。
淡いカンテラの光の中、パイルバンカーは獣の心臓を貫き、闇の中でアミノの瞳だけが輝いていた。
棹立ちのまま、獣の巨体がぐらりと揺らぐ。貫かれた心臓から、どす黒い血が間欠泉のように吹き上がり、パイルバンカーの機構部分からは圧力の上がった蒸気が一気に排出された。
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