p.110 救済
セトの進級試験が終わった。合否は1週間後に魔力協会本部および支部にて公表されるため、それまでの間は再びリヴェール=ナイトの捜索を開始した。合否はどこの支部でも確認できるため、ルーシャたちはニージアを離れる。
リヴェール=ナイトを探すための情報が何もない。幸い、フィルナルから同じような命令を受けた魔法術師や魔導士が何名かいており、リルト経由で彼らと連絡を取ることが出来た。そして、合同で魔法地図を創り出し、それぞれが探しに行った街などに印をつけていくことで捜索場所の重複を防ぐことが出来た。
地図を見る限り、やはり都市部を中心に捜索されていることが多い。
郊外や田舎町の数は非常に多く、探し始めるとキリがない。
「みんな、魔力の痕跡探してるんだろ?こんなに見つからないことなんてあるのか?」
ルーシャに魔法地図を見せてもらっていたセトが純粋な質問をぶつける。ルーシャ1人で探しているのならまだしも、何人か腕のたつ人間が探しているのに痕跡すら見つけられていない。
行動しないことには何も見つけられないので、とりあえず3人は列車でニージア郊外の町を目指す。リルトの助けもあり、ルーシャは広範囲の魔力探知を行いながら移動する。
「魔力を使ってなかったら痕跡が残りにくいからな」
リルトが眉間に皺を寄せて呟く。魔力には名残があり、それは魔法術を使用した時に顕著に残る。使った魔力や使用した魔法術が強いほど、魔力の残り香も強くなり長時間そこに残存する。
一応、その場にいたというだけでも魔力の残存もないわけではないが、あまりに少ない量のため短時間で消えてしまう。
「あいつは元々、神出鬼没で謎が多いやつだから探し出すのは難しいだろうな。あっちからひょっこりフィルナルを尋ねてきそうだけど」
なんの手がかりもないまま、ルーシャたちは列車に揺られ移動を続ける。
車窓の景色は飛ぶように移ろっていき、都会の街並みから長閑な田園風景へと変わっていく。
列車の中で事前に購入していた駅弁を食べ、周りの人が下車していく中、ルーシャたちは目的の駅までの旅を続ける。特にそこを決めた理由はなく、なんとなく今乗っている列車の最終地点まで行ってみようとなっただけだった。
乗客のほとんどが途中下車したなか、ルーシャ達3人は郊外の町・トアラにたどり着く。
駅舎は小さくて趣があり、駅員が1人いるだけだった。駅には列車を待つ人の姿はない。思っていたよりも寂しい光景にルーシャは少し後悔する。
(思ってたより田舎町かも・・・、人探しするには小さすぎるとこかなー)
人の出入りが少ない場所は、良く考えれば村社会のため余所者の情報を得られやすい。しかし、あまりにも人の出入りのない場所ならば、そもそも余所者が来ている可能性があまりにも低い。
この町を選んだことを少し後悔しながらも、ルーシャたちは宿を求めて駅を出る。駅前には少しの商店があるが、こじんまりしたものであった。駅前を過ぎるとすぐに民家か田畑が広がっている。今はもう冬に入るため、農作物はなく寂しい風景が広がる。
「たしか、この町にも支部があったはず。最悪、支部の仮眠室を借りるか」
リルトの言葉にルーシャは頷く。
一応、駅員にこの町の地図と宿がある場所を教えてもらったため、地図を頼りに進んでいく。駅から田畑風景が続くが、地図上では川があり橋の先には民家や店、宿屋などが軒を連ねているようだった。
代わり映えの無い景色を見ながら進み、ルーシャは変わらず魔力探知を繰り返すがリヴェール=ナイトの魔力は感じられない。無駄足の雰囲気をひしひしと感じながらも、進むしかないため進む。
歩いていくと川にさしかかる。思ったよりも大きな川が流れており、橋の上から川を覗くあたり、かなり透明で綺麗な水が流れている。水量も申し分なく、豊かな水源がこの町の田畑を潤しているのだと分かる。
橋を渡ってしばらくは同じような田畑が続いていたが、やがて田畑はなくなる。道だけは続いているが、道の両端に木々と背の高い草が生えているだけとなり、遠目に家や店が見える。とりあえず一服できそうだと一安心したルーシャの耳にセトの声が届く。
「人だ!人が倒れてる!シスター、リルト!」
ルーシャとリルトの後ろを歩いていたセトが、道の端に広がっていた草地に人が倒れていることに気づき、その人物に近寄る。
(魔力探知してたのに、人の気配も魔力も気付かなかった・・・)
驚きながらもセトの向かった先に走りよりながらも、ルーシャは不思議に思った。すべての生き物には魔力がある。それは人間も同じで、魔力に目覚めていない人であってもルーシャは魔力を感じることができる。そこに人がいたのならば魔力で気づいたはずだった。
もしや、セトの見つけた人はすでに・・・。
良くない考えが脳裏を遮るが、ルーシャは強制的に最悪のケースを考えることをやめる。
しかし、ルーシャが先程考えていたよりも驚くべき現実が目の前に現れる。
「リヴェール=ナイトさん!」
「リヴェール=ナイト!」
セトが駆け寄っていた人物は、黒い髪の長身の男で・・・ルーシャたちが探していた人物だった。瞳を閉じ、ルーシャたちの声に全く反応する気配がない。
リルトがすぐに呼吸と脈を確認すると、少し弱いながらも呼吸と脈はあった。呼び掛けや揺さぶりに反応する素振りはない。
とにかく、屋外の寒い場所にいても仕方がないためリルトがリヴェール=ナイトを背負い宿を目指すことにした。
(・・・おかしい)
驚いたままのルーシャだが、どうしても腑に落ちないことがひとつあった。何故そうなっているのか、気のせいなのかと考えるが、どうしてもルーシャの疑問が払拭されない。
悶々としたままのルーシャ、思わぬ状況にこの先どうすべきか考え続けるリルト、状況が状況なだけにただ静かにルーシャたちの後ろを着いてくるセト。
少し歩いた先に宿があり、ルーシャたちはとりあえず部屋をとることが出来た。宿屋の主人には旅の連れが疲れのため倒れたと適当に説明することで、余計な追求は逃れることが出来た。
宿の部屋でリヴェール=ナイトをベッドに寝かせ、リルトは一息つく。
「とりあえず、フィルナルと黒騎士捜索メンバーには連絡しとくか」
「・・・リルト、おかしいの」
「え?」
連絡水晶・パロマを手にしたリルトにルーシャは呟く。
「魔力が全く感じられない。本当に全然ない」
「確かに俺もリヴェール=ナイトの魔力を感じ取れないけど・・・」
「感じ取るとかじゃなくて、ほんとに全くないの」
目の前のリヴェール=ナイトを見つめながら、ルーシャは首を横に振る。
明らかに目の前の男は魔力がまったくない。それはナーダルやレティルトの棺を目の前にした、あの時と全く同じものであった。
「そのこともフィルナルに報告して指示を仰ぐ」
切羽詰まったルーシャを見て、ただ事ではないと察したリルトの表情が引き締まる。リルトはすぐにフィルナルに連絡を取る。
ルーシャはリヴェール=ナイトの手にそっと触れ、その冷たさに胸がざわめく。冷たい空気の外に倒れていたからか、リヴェール=ナイトの体は異常に冷たい。静かに息をしているとはいえ、あまりの冷たさにすでに手遅れなのかと思ってしまう。
ルーシャは魔法で部屋の空気とリヴェール=ナイトの布団を温め、少しでも冷えきった黒騎士のために出来ることを行う。
リヴェール=ナイトが意識を失っている原因も、その魔力が全くない原因も、なぜ倒れていたのかということも分からない。だから下手になにか踏み込んで行うことは出来ず、探りながら少しでも状況が改善できるよう行動することしか出来なかった。
リルトが各所に連絡をし、ルーシャがリヴェール=ナイトの看病を行う中、セトだけはすることがない。半人前の自分に出来ることは無いと踏んだセトは、静かに部屋を出て田舎町に繰り出すのだった。
──────────
ニージアでの休日は楽しかったなー。毎日ワクワクしたし、次の日になるのも楽しみで楽しかった。
同い年の友達とかあんまりいないから、こうして遊ぶこともほとんど無かったからなー。
また、リルトに観光とかに付き合ってもらおうかな。
そして、なんとなく赴いた先の町で・・・まさか倒れているリヴェール=ナイトさんを見つけるとは。
なんで倒れてたのか、意識がないのか、そして魔力も全くないのか分からない。
とりあえず宿に運んだけど、協会の病院に搬送した方が良かったのかな。
でも、リヴェール=ナイトさんは〈第一者〉の竜人ノ民だから普通に病院に連れて行っていいのか分からないし。
とりあえず会長の指示に従おう。
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