閑話 和泉と梶と
<和泉 たま視点>
先週、川野辺高校の学園祭があった。
私もクラスの手伝いをしていたけど大和君も栗平さんに誘われたのか遊びに来ていた。私も声を掛けられて表面上は取り繕えたと思うけどやっぱり"彼氏と学園祭とか周りたかったな"とか思うと悲しくなってしまった。
一緒に遊びに行ったり勉強会したりはしていたけど・・・やっぱりね。
あの日、私は鶴間君に栗平さんのところに行くよう促した。
2人の気持ちがわかっていたから。
意地を張り合っては居たけどあの2人の間に私が入り込む余地は無い・・・
はぁ・・・
気持ちの整理は付いたと思ってたけどやっぱり大和君と栗平さんが仲良くしてるのを見るのはまだ辛い。
「はぁ~」
「ん?どうかしたの和泉さん 溜息なんかついて」
「え!?あ、す すみません梶先輩!溜息でちゃってました?」
今私は図書館のカウンターに居る。
図書委員として放課後は当番で受付をしなきゃならないんだ。
私は本を読むのは好きだし、受付もそれほど忙しくはないので空き時間に本を読んでいられるこの仕事はそれ程嫌ではない。
そして、そんな私の隣に座っているのは2年の梶先輩。
初めて会ったときは髪型も服装も小説やマンガに出て来るような"不良"って感じで凄く怖かったんだけど、実際に接してみると凄く気配りの出来る人で後輩の面倒見もよく真面目。それに先輩方からの受けもよく、あの日大和君に別れを告げた少し後に図書室で1人で泣いてた時も私の話を聞いて慰めてくれた優しい人だ。
それ以降も何となく私を気にしてくれるのか会うと声を掛けてくれるし色々と心配もしてくれる。
それに先輩は成績も良くて、受付の空き時間に色々と試験のコツなんかも教えてもくれた。
だけど、夏休み明けに梶先輩が変わった。
前から誘われてはいたらしいけどサッカー部に途中入部し大活躍。
髪型もスポーツマンらしい爽やかな感じになった。
もちろんそうなると女子生徒が放っておくわけもなく、今では学内でも人気者だ。
実際、同じ図書委員の女子数名と練習試合を見に行ったけど・・・フィールドを走りゴールを決める先輩は"カッコよかった"
私はいつしか必死に先輩の姿を追ってしまった。
私だけが知っているいつもの優しい先輩とはまた違うカッコいい先輩。
でも先輩がみんなに注目されるのは嬉しい反面、先輩が遠いところに行ってしまったよう気もしてちょっと寂しかった・・・
「何か悩み事なら相談にのるよ?
まぁ俺じゃ大したコメント出せないかもしれないけどな」
そう言いながら笑いかけてくれる梶先輩。
・・・先輩の事ですから・・・流石に・・・
「い いえ大丈夫です。大したことじゃないですし」
「そうか?これでも一応先輩なんだから頼ってくれてもいいからな」
「はい ありがとうございます!」
本当・・・先輩って優しいな。
私みたいな地味な子にも親切だし。
最近は結構告白されてるとか聞くけど、何だかそんな笑顔みせられたら勘違いしちゃいそうですよ。。。
---------------------
その後も先輩とは図書委員の当番の時だけだったけど勉強を教えてもらったりお勧めの本を紹介し合ったりと楽しい時間を過ごすことが出来た。
そういえば先輩には3年生にお姉さんがいらっしゃるんだけど本が好きらしくて図書室にも良く来てくれる。凄く綺麗な方で私にも声を掛けてくれる素敵な人だ。梶先輩が本を読むようになったのもこのお姉さんの影響らしい。
そして、そんな関係が続く中で女子生徒にとっての一大イベントでもあるバレンタインデーが訪れた。
私も梶先輩に渡したくて一応チョコレートの用意はした。
ただ、私が渡しても喜んでくれるかは凄く心配だった。
最近の先輩は凄くモテるし、勘違い女に思われて今までの関係が崩れてしまうのも怖かった。
だから・・・梶先輩含め図書委員の先輩”達"にチョコを配った。
本当は先輩だけにあげたかったから先輩の分だけ少し大きめだったりはするんだけど・・・今の私にはこれが精いっぱい。
「梶先輩。いつもありがとうございます。これチョコレートです」
「お おぅありがとうな」
ちょっと驚いた感じの先輩の反応・・・やっぱり迷惑だったのかな。
---------------------
そしてホワイトデー。
と言っても特に何か予定があるわけではないんだけど・・・何となく期待をしてしまう自分もいた。
でも・・・ありえないよね。
と思いながらいつもの様に図書室に行くと今日は当番じゃないはずなのに先輩がいた。
「あれ?梶先輩。今日は当番の日じゃ?」
「あ あぁ代わって貰ったんだ」
「はぁそうなんですね」
何となく素っ気ない応対をしてしまったけど、期待しちゃだめだとも思うんだけど先輩と居られることが何となく嬉しかった。
「 あのさ和泉さん これ・・・そのバレンタインのお返し」
「ふぇ!わ 私にですか!」
「あ あぁ こういうの慣れてなくて気に入ってくれるかわからないけど・・・」
差し出された袋を開けるとクッキーと一緒にかわいらしいカチューシャが入っていた。
「先輩・・・これ」
「和泉さんに似合うかなと思って。どうかな?」
「あ ありがとうございます。大切にします!」
「そ そうか!気に入ってくれたみたいで良かったよ。
それで・・・その・・・・」
「え?どうかしましたか?」
「あぁ・・・昨日色々考えたのに気の利いたセリフが!」
「え~と梶先輩?」
なんだか図書室に来てた生徒さんたちも私達を注目し始めちゃったんだけど・・・
「和泉さん。好きです。俺と付き合ってください!!」
「え!?」
な 何どうしたの?先輩が私に"付き合って"って言ってくれたの?
どうしよう。一番聞きたかった言葉のはずなのにどう返事をしていいかわからない。私は何を言っていいかわからず思わず先輩に抱き着いた。
「え?和泉さん?」
「わ 私も先輩の事が好きです。こちらこそよろしくお願いします」
ちなみに図書室内に居合わせた生徒さん達からはこの公開告白に温かい拍手が送られその月の校内新聞の記事にもなってしまいました。。。
何だか恥ずかしかったけど幸せです。
**********************
7年目の約束第161話の裏話とそれに至るまでのお話となります。
和泉さんは途中から登場の場がなくなってしまったので再登場させたかったんですよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます