第41話 再戦④
「その調子よ!大和!」
「おぅ!」
春姫の声援を受けながらボールに反応。
僕のリターンが相手コートのライン際ギリギリに落ちる。
「ゲーム 鶴間」
審判をしてくれている渋川さんの綺麗な声がコートに響く。
「くそっ!ってかなんで1か月でこんなに動きが違うんだよ!
俺だってくそ暑い中真面目に練習したんだぜ!」
ラケットをコートに叩きつけながら豪徳寺が僕に問いかけてくる。
荒れてるな・・・ある意味その方がやりやすいけど。
夏休み最終日。
僕は春姫と共に渋川さんの実家が経営するテニスクラブに来ていた。
前回不完全燃焼に終わった僕と豪徳寺の試合。
再戦の調整をすることになっていたものの学校としての練習試合は夏休み中の調整がつかなかったため非公式ながら渋川さんのテニスクラブで試合をすることになったんだ。
今日は3セットマッチ。今は僕が6-3で1セットを取ったところだ。
「豪徳寺!態度が悪いぞ」
「す すみません結城先輩。ちょっとイライラして」
「そういうところだよ」
「え?」
「前の練習試合の時も言ったが、お前は集中が良く途切れる。前回はそこを鶴間君に狙われた」
「・・・」
「あの時はラリーで集中力を切らされたが、元々鶴間君も技術はあったんだ。練習してお前との差が縮まったことで普通のリターンやサーブでも揺さぶることが出来る様になっただけだ」
・・・その通りですけど。結城さん・・・出来ればバラさないでおいてくれた方が助かったんですが・・・
「そ そういうことか・・・」
「・・・」
「鶴間!やっぱりお前は俺を楽しませてくれる奴だ!1セット取られたが次は取り返すからな」
「お おぅ!」
毎朝のランニングと筋トレ、春姫との特訓、先輩達のシゴキ・・・
全体的にレベルアップは出来たと思うけど結構もうギリギリなんだけどな。
そんなことを思いながらベンチに戻るとタオルとスポーツドリンクを持った春姫が僕を出迎えてくれた。
「お疲れ様♪ いい感じね」
「あぁ何とか食らいついてる感じかな」
8月最終日の午前中だけどまだまだ暑い。
タオルで汗を拭きながらスポーツドリンクを一口。
何だか体に染み渡る。
「ったく栗平とイチャついたりバイトしたりで忙しいのかと思ってたのにいつの間に練習してたんだよ。もう僕より上手いんじゃないか?」
「ちゃんとやることはやってたんだよ。僕だって豪徳寺に負けたままじゃ悔しいからね」
今日は何故か有坂も僕のベンチ側に来てくれている。
学校的に豪徳寺の応援はしなくていいのか?って聞いたら"今日は親友の試合を応援しに来た"との事。何だか嬉しいよな"親友"とか。
「大和って結構負けず嫌いだしね♪」
「そうだな。きついとか言いながらも俺達の特訓に休まず出てたからな」
「ん?俺は鶴間はドMかと思ってたぜ。俺だったらあんな練習逃げるぜ」
「ド ドMって・・・結構きつかったですよ。でも先輩達のおかげです」
阿部部長と藤崎先輩も試合を見にくてくれた。
先輩達の特訓は・・・思い出すと吐きそうだけど・・・あの練習のおかげで瞬発力や持久力も上がったしボールコントロールもより精度が上がったと思う。
本当先輩達のおかげだ。
それに春姫も試合形式の練習に付き合って試合勘を高める練習に協力してくれた。テニスの事となると春姫も手抜きはしてこないから結構大変だったけど本当助かった。
休憩を挟んで行われた第2セット。
結城さんのアドバイスが効いたのか、休憩が入ったことで冷静さを取り戻したのか、豪徳寺はサーブのキレも動きも冴えわたり中々隙を見せずゲームの取り合いとなった。
そしてデュースを挟み2ゲームを連取した豪徳寺が最終的に第2セットを取った。
僕なりに練習は積んだけど自力ではまだ豪徳寺の方が上なんだよな。
そして、ラストとなる第3セット。
このセットを取った方が勝者だ。
僕も豪徳寺も出し惜しみなくボールを追いゲームに集中した。
ゲームの取り合い、デュース。そして以前の練習試合の様に続くラリー。
夏の日差しの中で僕も豪徳寺も体力がどんどん奪われていった。
そしてデュース後の1ゲームを取った僕にサーブが回ってきた。
後1ゲーム取れれば勝ちなのにその1ゲームが遠い。
「大和!!頑張れ!このサーブが決まれば勝ちよ!」
ベンチから春姫の声援が聞こえる。近いはずなんだけど遠くから声が聞こえる様だ。思ったより疲労が溜まってきているのかも・・・
そして僕の放ったサーブを当然の様に打ち返してくる豪徳寺。
朦朧とする中でボールを打ち返す・・が当たり損ねラケットの外枠に当たり高く上がってしまった。
「よし!」
豪徳寺にとってはチャンスボール。
落下地点でラケットを構えるが・・・当たり損ねで変な回転が掛かったのかボールは予想外の方向へバウンドしまさかのポイントとなった。
「ゲーム 鶴間!」
「嘘だろ・・・」
呆然とする豪徳寺。
まぁそうだろうな。僕も何だかよくわからないよ・・・
「やったな鶴間!っておい鶴間!」
「ちょっと大和!大和!」
どうも熱中症になってしまったらしく試合終了と同時に僕は倒れてしまったらしい。気が付いたらテニスクラブの医務室のベッドに横になっていた。
隣りでは春姫が心配そうな顔をして僕の事を見ている。
「あ、大和。大丈夫?私誰だかわかる?」
「可愛いくて僕の大好きな幼馴染の女の子・・・かな?」
「も もう!冗談言ってられるなら大丈夫よね。みんなを呼んでくるわ」
結構本心だったんだけどな。そんなに照れなくても。
少しすると先輩方や豪徳寺、有坂らが医務室に入ってきた。
「ごめんなさい。日差しも強くなってきたからそろそろ止めようと思ってたんだけど・・・」
「あ、大丈夫ですから気にしないでください渋川さん」
責任を感じているのか渋川さんが僕に謝罪をしてきた。
豪徳寺と試合をさせてもらった感謝こそしても責めるようなことはないですよ。
と後ろの方に居た豪徳寺がベッド脇に来て僕に話しかけてきた。
「今日は負けといてやるが、来月はまた部活の親睦試合があるらしい。今度こそ負けないからな!」
「あぁ 今日のは・・運が良かったんだ。次はきちんと勝つ」
「ふん。今のうちに言ってろ。
それからお前を倒すのは俺だからな他の奴らには負けるなよ」
そう言って先輩方に挨拶をして豪徳寺は帰っていった。
態々僕が目を覚ますまで残ってくれていたのか?もしかして心配して?
にしても・・・"お前を倒すのは俺だからな"とかスポコン漫画やアニメの中のセリフだと思ってたけど実際に言う奴いるんだな。
以前の僕だったら、こういう熱い言葉はスルーしてたけど・・・悪い気はしないかも。
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