第39話 旅路②
「予約していた鶴間です。チェックインお願いします」
「承知いたしました。少々お待ちください」
ホテルフロント。
部活の合宿とかでホテルに宿泊したことはあるけど自分でチェックインするのとか初めてだしちょっと緊張する。
「お待たせいたしました。鶴間大和様と栗平春姫様、オーシャンビューの和洋室一部屋でのご予約となりますがお間違えないでしょうか?」
「は はい間違いないです」
「承知しました。それではご案内いたします」
あらためて一部屋って言われると何だか恥ずかしいけど、ホテルの人に僕と春姫の事はどう見えてるんだろうな。
名字違うし兄妹じゃないのはわかるだろうけど恋人同士の旅行にちゃんと見られてるのかな?客商売だし詮索はしないだろうけど・・・・
そんなことを考えながら係りの人に案内されエレベーターで7階へ。
「お部屋はエレベータ降りて手前の707号室となります」
「あ、はい ありがとうございます」
案内された部屋はネットで見たよりゆったりとした作りで8畳の和室に内風呂とトイレ。それにもう一部屋バルコニーに面してソファが置かれた洋室を持つゆったりとした作りの部屋だった。
そして、バルコニーから一望できる海は暗かったけど遠くの海上に船の灯りがいくつか見えた。多分明日朝は素敵な景色が見えるんだろうな。
「き 綺麗な部屋だね」
「あ、あぁそうだな」
「・・・・・」
「・・・・・」
春姫と家で2人きりになることは多いけど、こういうところで2人きりというのはまた違った緊張感がある・・・・というより何を話していいかわからない。
「あ、あのさ大和。何だか私お腹空いたな。レストラン上の階にあるんだよね?行かない?」
「そ そうだな。ここのレストラン美味しいらしいから楽しみだな」
2人共ちょっと棒読みな会話だったけど、春姫も同じ気持ちだったのか(もしかしたら本当にお腹が空いてただけかもだけど)少し早かったけど僕らはレストランに移動して夕飯を取ることにした。
レストランは直ぐ上の8階だったので僕らは階段を上り移動した。
が、8階にあったレストランは思ってた以上に高級そうな佇まいのお店で正直僕も春姫も入るのを躊躇してしまった。
「え~と・・・このお店なんだよね?」
「あぁ間違いないはず」
とエレベータを降りてきた老夫婦がレストランの入り口で僕らが持っているのと同じ夕食券を出しているのが見えた。
「あの人達も夕食券出しているし大丈夫そうだな。行こう春姫」
「え、う うん」
僕は不安そうな表情の春姫の手を引いて、老夫婦同様に入り口でフロントで貰った夕食券を提示した。
すると、店員さんは"いらっしゃいませ"と僕らに微笑みかけ窓際の席へと案内してくれた。
「本日のメニューはお魚メインのコースとお肉メインのコースからお選びできますがいかがいたしますか?」
「う~ん。大和はどうする?」
「そうだな。やっぱり海の近くだし魚かな」
「だよね。じゃ私も魚でお願いします」
「承知いたしました。それではお魚のコースを2つですね。お飲み物はいかがいたしましょう?」
本当はお酒とか頼んだりするとカッコいいんだろうけど僕らまだ未成年だしな。
などと考えているとお店の方がノンアルコールドリンクを勧めてくれた。
「学生さんでらっしゃいますよね?ノンアルコールドリンクもございますよ?」「あ、そうなんですね。どんなのが人気ですか?」
「はい。ノンアルコールのワインなど人気ですね。最近は車で来られる方も多いのでワインの風味だけ楽しみたいとうお客様も多くて」
「へぇ。じゃあ僕はそれにしようかな。春姫はどうする?」
「うん。私もそれ頼んでみようかな」
「はい。かしこまりました。それではお魚コースとノンアルコールワインをそれぞれ2名様分でご用意させていただきます」
一応心配になって聞いてみたけど今回頼んだドリンク含めノンアルコールドリンクは夕食料金に含まれるんだそうだ。
「何だかこういうお店って慣れないから緊張するね・・・」
「そうだね。僕も初めてだよこういうお店」
まぁ僕ら高校生だし両親もあんまり外食とか連れてってくれなかったからな。
春姫とのデートもファミレスやチェーン店中心だし・・・
2人して出てくる料理に期待しながら会話を楽しんでいると
ドリンクが運ばれてきた。
「ノンアルコールワインでございます」
「わぁ何だかブドウのいい香り」
「うん。凄く濃い色だね」
ノンアルコールって言ってたけどワインだから発酵させてるんだよな?
何だかアルコールっぽい香りもするけど・・・まぁノンアルコールって言葉を信じよう。
「じゃ・・・何だろ 乾杯しようかと思ったけどネタが思いつかないな」
「ふふ 大和っぽいわね。
じゃあさ・・・・今日は私と大和の記念日って事にしようよ。毎年この日は2人で一緒に過ごすの。美味しいもの食べに行ったりデートしたり。どうかな?」
「いいねそれ。この先も2人ずっと一緒にってことだよね」
「え、あ・・・ずっと」
「そ。じゃ僕らの記念日に乾杯!」
「か かんぱい」
ん?どうしたんだ春姫。記念日の事自分で言ったのに顔赤くして照れてるのか?
それに"ずっと" "ずっとって?"とかボソボソとつぶやいてるけど。
「前菜の地元でとれた新鮮野菜と生ハムのサラダと季節の野菜をベースとしたスープです」
春姫が自分の世界に浸っている間に料理が運ばれてきた。
綺麗に盛り付けられた色鮮やかな野菜と生ハム、それに食欲をそそる香りのスープ。どちらも美味しそうだ。
「美味しい!」
「このサラダ、野菜はもちろん美味しいけどドレッシングも凄くいい味。ちょっと真似してみたいかも」
「味覚えて今度作ってよ」
「ふふ 今度作ってあげるね」
何だか美味しい食事をするとそれだけでテンション上がるな。
その後も伊豆らしく地魚を素材としたムニエルとシーフードたっぷりのパスタが振る舞われた。
「どの料理も美味しいね」
「本当幾らでも食べられちゃいそうで怖いわ」
本当に締めのドルチェまでどの料理も美味しく、食べ過ぎてしまいそうなくらいに僕も春姫も大満足で食事を終えることが出来た。
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美味しい食事を楽しんだ僕らは少し夜風に当たろうということでホテルの中庭を散歩することにした。
「綺麗な庭園だね」
「あぁホテルのあんなにあったけど昼間だと花も沢山咲いてるみたいだし明日帰る前にも来てみようよ」
「うん・・・・きゃっ」
と夜道のせいか春姫が何かに躓いて転びそうになった。
僕は慌てて春姫の手を引いて自分の方に引き寄せた。
自然と春姫を抱きしめる様な格好となり春姫の顔が僕のすぐそばに。
「や やまと・・・そのありがと」
「春姫・・・」
「あっ大和・・・」
思わず春姫に引き寄せられるように久しぶりのキスをした。
唇を離すと微笑みながらも春姫は照れて真っ赤な顔をしていた。
「そ その春姫・・・部屋に戻ろうか」
「は はい・・・」
その夜、僕と春姫は一線を越えて幼馴染の友達からある意味本当の恋人同士となった。
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