第38話 旅路①

「忘れ物とか大丈夫だよね?」

「うん。大丈夫」

「じゃそろそろ行こうか あ、荷物は僕が持つよ」

「ありがと大和」


8月も後半となり長かった夏休みも終わろうとしている。

そして今日と明日、僕も春姫もバイトは休みをもらい前に約束していた1泊2日の旅行に行く。行先は伊豆高原だ。


今日の旅行のためにバイトも2人で頑張ったし、少し高校生には贅沢かとも思ったけど春姫の希望で海が見える少々お高めのホテルも予約した。

たまには贅沢してもいいでしょ。


電車に揺られ目的地である伊豆高原へ。

横浜からの特急電車は中々乗り心地も良く快適だった。

春姫も座席の座り心地が良かったのかすぐ寝ちゃってたしね。


「う~ん 何だか空気が美味しい気がする」

「高原の空気って感じだよね」


駅に降りての第一声。

正直なところ僕らが住んでいる川野辺もそれほど都会というわけでもないので、あまり空気の違いは判らない。

強いて言えばここは海が近いから潮の香りがするくらいかな。

でもまぁ気分だよね。高原というと空気が美味しい気はする。


「最初に行くのは灯台だったよね」

「あぁ駅から歩いて10分も掛からないはずだ」


そう言って僕らは駅を出て灯台方面へと歩き出した。

一応今日と明日観光する場所は事前に調べてきていた。

今日は灯台と近くにあるつり橋を観光し、隣接する海浜公園をゆっくり散策する予定だ。

あまり詰め込んでも疲れちゃうからね。


「だけど春姫と2人で知らない町を歩いてるって何だか不思議な気分だな」

「ふふ。私と2人だけで旅行出来るなんてありがたく思いなさいよね♪」

「あぁ 本当春姫と2人で旅行できるなんて嬉しいよ。ありがとう」


「・・・な 何よ!う うれしいとか・・・私だって2人きりで・・・その・・・嬉しいんだからね!」

「ふふ そっか春姫も喜んでくれてるんだね。僕も嬉しいよ」

「わ 笑わないの! っ早く行くわよ!」


春姫って今でも時々ツンな感じになるけど僕が素直に春姫への想いを伝えるとすぐ照れたり恥ずかしがったりするんだよな。

まぁ僕もわかっていながらも春姫が可愛くてつい言っちゃうんだけどね。


「大和!」

「あぁ今行くよ」


春姫が急かすので予定よりも早く灯台には着いた。

灯台の規模はそれ程大きくは無いけど切り立った崖の上に建てられているので海面からの高さは結構ある。


「景色綺麗だね。それに思ったより・・・・高さあるんだね」

「崖の上だからな」


僕らは灯台内の展望室まで登った。

今日は天気もいいので海が凄く綺麗に見えるし内陸側の樹木の緑も凄く綺麗だ。


「あ、あれだよね次に行くつり橋。結構高さあるみたいだけど大和大丈夫?」

「確かに・・・春姫こそ大丈夫か?ちょっと震えてないか?」

「な 何言ってるのよ!つり橋なんて余裕よ!」


灯台のすぐ近く。遊歩道を歩いた先につり橋はあった。

さっきは余裕とか言っていた春姫だったけど・・・


「ちょ 大和!そんなに早く行かないでよ。きゃ!」


そう言いながら僕の腕に捕まってくる春姫。

海岸線の飛び出した断崖絶壁。その間を結ぶつり橋は太いワイヤーで固定されていて、しっかりした作りながらも海面からの高さもあり中々の迫力だ。

それに・・・風が吹くと少し揺れる。今も丁度強風が吹いて少し橋が揺れた。


「大丈夫だよ。しっかりした作りの橋だし。それに僕がついてだろ?」

「大和・・・・」


ちょっといい雰囲気になりこれってつり橋効果?なんて思っていると再びの強風で揺れるつり橋。


「きゃ~!やっぱり無理!!」


と言いながらつり橋を駆け抜けてく春姫。

渡れてるじゃん・・・っていうか目をつぶって走るのは危なすぎるぞ・・・



つり橋を渡った僕たちは海浜公園に来ていた。

あの後、涙目の春姫を落ち着かせるのに少し時間を要したけどね。

まぁ急ぎの旅でもないしとのんびり歩いてきた。


「そろそろお腹空いてきたしとりあえず昼飯を食べようか?」

「うん。じゃあさ、この海辺の広場ってところ行ってみようよ。眺めとか良さそうだし」

「そうだね。じゃ着いたら売店で何か買う?」


と僕が案内板を見ていると

春姫は持ってきた荷物から大きな包みを取り出した。


「ふふふ これを見なさい!今日早起きしてお弁当作ってきたのよ!」

「え!本当に」


結構大荷物だったから何持ってきたのかと思ってたけど・・・お弁当を作ってくれたのか。

あ、もしかして特急の中で寝ちゃってたのは早起きして眠かったから?

・・・・僕のために早起きしてくれたのか・・・何だか嬉しいな。


「・・・あ ありがたく思いなさいよね!」

「うん。凄く嬉しいよ。ありがとう春姫。さぁ早く広場に行って食べよ!」

「ちょ! わ わかったから慌てないで!」


僕は春姫の手を取って海辺の広場へと走った。

広場は海岸線に面して作られた広い緑地帯で、天気が良いこともあり芝生の上にレジャーシートを広げてお弁当を食べている人達も沢山いた。

僕らもそれに習って持ってきていたレジャーシートを広げた。


「準備良いね大和」

「この公園来るって決めてたから念のためね」

「あ~ もしかして最初からお弁当期待していた?」

「ソ ソンナコトナイヨ」

「期待に添える味かはわからないけど、せっかく作ってきたんだから全部食べてよね!」

「おぉ!!」


僕の好きな唐揚げにポテサラ。それに食べやすく小さめに作られたサンドウィッチが綺麗にお弁当箱に詰められている。凄く美味しそうだ。

早速頂こうかなと思っていると春姫が唐揚げを箸で取って僕の口の前に差し出してきた。


「え?」

「は 早く食べなさいよ。腕が痛くなるでしょ!それに恥ずかしいし・・・」

「あ あぁ いただきます」


僕は春姫の箸から唐揚げを食べた。

冷めてるけど味がしっかりしていて美味しい。流石春姫だ。


「うん。美味しいよ」

「ほんと!よかった。どんどん食べてね」


笑顔の春姫を見て、今度は僕が唐揚げを箸で取り春姫の前に出した。


「ふぇ?」

「お返しだよ。春姫も食べな」

「う うん」


緊張した面持ちで今度は僕の箸から春姫が唐揚げを食べた。


「どう?」

「うん 美味しい。自画自賛かな♪」


その後も楽しく2人でお弁当を食べた。

食べさせあうとか普段は恥ずかしくて中々出来ないけど・・・2人で旅行に来てるって思うと気持ちも大胆になるのかな?


「完食!本当美味しかった。それに旅先で春姫の手料理を食べられるとは思ってなかったしね」

「お粗末様。私の手料理で良ければいつでも作ってあげるわよ♪」

「え?それってこの先もずっとって事?」

「あ!」


僕の言葉を聞いて更に顔が赤くなる春姫。


「す 少し散歩しましょ!海岸とか歩くと気持ちよさそうよ!」

「そうだね。潮風が気持ちよさそうだ」


うん。やっぱり春姫の反応は可愛いな♪


僕らは手を繋ぎ海岸を散策した。

公園内の海岸ということもあり泳いでる人は居ないけど僕たちと同じよう海辺を散策するカップルや家族連れは沢山いた。


僕らもきっと周りからは仲が良いカップルに見られてるんだよな。

そんなことを思っていると春姫も同じ気持ちなのか握っていた小さな手に少し力が込められた。


海辺の散歩の後は、近隣の観光施設を周り少し予定より早かったけど駅まで戻って送迎バスでホテルに向かった。


----------------------------

更新遅れてすみません。まだ仕事が押し気味なので多分次の更新も週末です。

ちなみに別作品ですが「あなたの事が好きになったのかもしれません」にも約5年後の大和と春姫が登場中です(27話・28話他) そっちでもイチャついてます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る