僕と彼女のその先に

第35話 夏祭①

夏休みもいつの間にか後半。

相変わらず部活にバイトに勉強に・・・と忙しい日々を過ごしていた。

もちろん春姫とも毎日の様に会っている。

テニスはもちろんだけど一緒に食事をしたり遊びに行ったりとこちらも順調だ。

あ、有坂や山下さんとも何度か一緒に遊びに行ったな。


そして今日は川野辺天神祭りの日だ。


「大和・・・・どうかな?おばさんに着付けしてもらったんだけど・・・」

「・・・・・」

「・・・へん?」

「い いや可愛すぎて・・・凄く似合ってるよ」

「ふぇ!?ほんと!」


不安そうな顔で話しかけてきた春姫だったけど、僕が"似合っている"というとニマニマと可愛らしい笑顔を見せてくれた。


「ほら大和!こんな可愛い彼女をエスコートするんだからあんたも早く着替えてシャンとしなさい!」

「わ わかったよ」


春姫の着付けの為、珍しく早く帰ってきた母さん。

父さんや春姫の両親はまだ仕事中らしいけど今日は早めに切り上げて皆でお祭りに行くそうだ。まぁ祭りと行っても父さん達は屋台で飲むだけだろうけど・・・

ちなみに"お邪魔しちゃ悪いから"と僕と春姫とは別行動でよいらしい。

でも親に"お邪魔しちゃ悪いから"とか言われるのは結構恥ずかしい・・・


「じゃあ、先に行ってるよ」

「おばさん行ってきま~す」

「ん。楽しんでらっしゃい!」


うちから川野辺天神までは歩いて15分くらい。

ただ、今日は僕も春姫も慣れない浴衣を着ているからもっと時間が掛かるかもしれないな。


僕は春姫と手を繋ぎ天神様への道を歩いた。

道には町内会が出した露店が並び、僕たちと同じように浴衣を着たカップルや普段着ながらも手を繋いだり腕を組んだカップルが沢山いた。

ここ数年川野辺天神は恋愛の神様やパワースポットとして雑誌やテレビに取り上げられたこともありカップルの参加率が高いんだよね。

そういうこともあり去年までは船橋さん達と皆で行っていたけど今年は"彼女"である春姫と2人で行くことにしたんだ。

だから・・・正直緊張もしている。


「大和・・・去年はそんなに気にしてなかったけどカップルの数・・・凄いね」

「だね。でもさ他の人から見ると僕たちもそのカップルの1組なんだよ」

「・・・・そ そうだよね。私達もカップルなんだよね」


繋いでいる春姫の手に力が入る。

でもちょっと嬉しそうにも見えるかな。


照れながらも2人で並んで歩きいつのまにか天神様の参道に到着。

天神様の参道に入ると沢山の提灯と屋台が僕らを出迎えてくれた。

周囲も暗くなってきたこともあり参道に灯る提灯の明かりも綺麗だ。


「あ、大和!射的があるよ」

「ほんとだ。なんだか懐かしいな」


小学校低学年の頃だったかな。休みを取ってくれた両親に連れられてお祭りに来た時に景品の人形を春姫が欲しいって言いだして2人で挑戦したんだよな。

結局2人とも人形は落とせなかったけど、露店のおじさんが春姫にプレゼントしてくれたんだっけ。


「久しぶりにやってみないか?」

「うん いいよ。じゃ勝負にしよ」

「おっいいね。じゃ負けた方が勝った方のお願いを1つ聞くってのはどう?」

「ほぅ~大和は私に勝てるとでも?」

「春姫こそ勝てるとでも?」

「「ふふふ」」


何だか変なテンションで僕らはおじさんのお金を払い銃とコルク弾を受け取った。コルク弾は5発。賞品を多く取った方が勝ちだ。

僕と春姫は狙いを定め銃の引き金を引く。

[ポン]

コルク弾が撃ち出され景品に向け打ち出される・・・が、狙っていたお菓子の箱に当たったものの少し傾いただけで倒れず。威力無いんだよなこの銃・・・

春姫の方も同じ感じで景品は倒れず悔しそうな顔をしている。


そして、2発目、3発目も同じ商品を狙ったものの商品は揺れたり傾いたりするだけ。中々手強い。


「あぁ~もう なんで落ちないのよぉ~」


春姫は結局狙っていた熊の人形を落とせなかったみたいだ。

いい感じに傾いてるし、後1発か2発で落ちるんじゃないかな?

僕は狙いを変えて春姫が狙っていた熊の人形を撃ってみた。


「あ!」


僕の撃った角度が良かったのか人形は1回転した後、うしろに倒れ景品ゲットとなった。


「取れちゃった・・・」

「大和ズルいよ~ それ私が狙ってた人形だし」


ちょっと春姫が拗ねてる。

まぁ確かにちょっとズルかったかもな。

そう思いながら僕は元々狙っていたお菓子に最後の1発を撃つと運よくそれも倒れてゲット出来た。

おじさんから受け取った景品をよく見ると人形はキーホルダーになっていた。

『キーホルダーか・・・』


「春姫。これプレゼントするよ」

「え?くれるの?」

「あぁ・・・その・・・ちゃんとしたアクセサリとかはバイト代で今度プレゼントするから前にプレゼントしたキーホルダの代わりにしてくれ」

「あ・・・」


昔、僕が夜店で買ってあげたキーホルダー。

大切にしてくれてたみたいだけどテニス部で嫌がらせを受けたときに無くしちゃったんだよな。


「・・・ありがとう。今度こそ無くさないように大切にするね」

「でもさ僕はもういつでも春姫の横に居るんだから無理はしなくていいからね」

「うん」


返事をしながら僕の腕に抱き付いてくる春姫。

何だかちょっと親密度が上がった気がする。

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