第30話 買物

「いつまでも落ち込んでんのよ」

「べ べつに落ち込んでるわけじゃないよ」


豪徳寺との試合の翌日。

あれだけ練習したのに勝てなかったんだから、全く落ち込んでいないと言えば嘘になるけど、気持ちとしてはそれなりに切り替えたつもりだ。

あれで駄目なら前以上に頑張るしかないわけだし。


「だって、さっきからずっと俯いてるじゃない・・・もしかして私との買い物がつまらないの?」

「そんなことないよ 春姫と一緒に居られるのは嬉しいよ」


今日僕は春姫と隣町のショッピングモールに来ていた。

いわゆる買い物デートってやつだ。

そして今は某大手スポーツ用品店の水着コーナーにいる。

夏ということもあり店内には沢山の水着が並んでいる。

何をしにというと・・・有坂達と一緒にプールに行くため、春姫の水着を選びにきたんだ。だから、当然のことながら今いるのは女性の水着コーナー。


まぁ早い話が恥ずかしいから俯いているだけだ。

まわりを見ると仲良さげに水着を選ぶカップルや楽し気に盛り上がる女性客ばかり。他の人が見れば僕と春姫もカップルに見えるんだろうけど僕にはこの手の店は敷居が高い。


「・・・嬉しいんだ・・・ならいいけどさ」


と春姫は再び水着を選び出した。

心なしか嬉しそうにしている。

『良かった。折角2人で来たのに機嫌悪くしちゃったら台無しだしな』

などと思っていると春姫が何着か水着を取って僕の方に戻ってきた。


「で、大和はどれがいいと思う?」

「え?」

「もう!今日は大和が水着を選んでくれるんでしょ?

 やっぱり・・・男の子はこういうセクシー系のビキニとか好きだったりするのかな?」


と春姫はちょっと照れながらキワドイデザインの黒ビキニを僕の前に出してきた。

・・・思わずビキニを着た春姫を想像してしまう。

個人的には似合うと思うし・・・その・・・こういうの好きだけどさ。

これは流石に露出が・・・


「は 春姫になら凄く似合いそうだけど・・・ちょっと露出多すぎないかな・・・

 その・・・・他の人に・・・春姫の肌とかそんなに見せたくないし・・・」

「・・・・・」

「ん?春姫どうした?」

「・・・そ そうだよね。露出多いよね。

 じゃ、じゃあこっちのワンピースタイプにしようかな~」


何だか春姫が少し顔を赤くしてぼーっとしてる。

どうしたんだ急に?


「春姫?」

「え?うん。大丈夫だよ!私が見せるのは大和だけだからね」

「え?僕だけに見せて?」

「え?あぁ~今の忘れて大和!!記憶から消して!」


何やら慌てた春姫は水着を持って試着室へ行ってしまった。

『僕だけにって・・・・あ゛~~~』

その後はお互いの顔を見るのが恥ずかしかった・・・


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結局春姫はワンピースタイプの水着を買った。

試着したところも見せてもらったけどもちろん凄く似合っていた。

春姫の前では冷静に"似合うよ"とかカッコつけちゃったけど、小さい頃に見た水着姿とあまりにも違って正直色々とヤバかった。

制服や私服の時はあんまり意識したことなかったけど、春姫ってずっとスポーツをやってた事もあるんだろうけどウエストも締まってるし、その・・・胸も大きいし、とにかくスタイルが良くてそこら辺のグラビアアイドルなんかより全然綺麗で・・・色々あったけどこんな子が僕の彼女なんだと思うと嬉しくて・・・


「ん?どうしたの大和。ニヤニヤして」

「ん?春姫と付き合えて幸せだなぁ~って」

「・・・・ば ばか!こんなとこで何真顔で言ってるのよ。

 ほ ほらお昼食べに行くわよ!」

「あ、春姫 ちょっと待ってよ」


照れ隠しなのか早歩きでレストランフロアへと向かう春姫。

何だかちょっと可愛いかも。


そして、レストランフロアに着いた僕たちは、新規オープンと書かれていたカジュアルイタリアンのお店に入った。

ランチタイムということで結構並んではいたけど、お洒落な感じの雰囲気が気に入ったんだよね。一応デートなわけだし。


店内に案内され席に着くと春姫はトマトクリーム系のパスタ、僕はバジル系のパスタを頼んだ。


「ん~~ 美味しい」

「本当だね。味はもちろんだけど店内の雰囲気も良いしね。これならまた来たい感じだよ」

「ふふん また一緒に来てくれるんだ♪」

「も もちろんだろ春姫とは恋人同士になったわけだし」

「え、あ、そうだよね。恋人同士だもんね・・・・」


春姫が急に黙り込んでしまった。

どうしたんだ?


「・・・このショッピングモールってさ、出来たばっかりの頃に部活の帰りみんなで来たよね」

「そうだね。有坂とか船橋さんとか」

「あの頃って、私は大和に酷い事してたけど・・・大和の事は好きだった」

「うん」

「それで・・・この間久しぶりにカフェに一緒に来た時は、幼馴染の友達としてだったけど、大和と一緒に居られるだけで嬉しかった」

「でも、あの時は店員さんにカップル限定パフェ勧められちゃったよね」

「うん。恥ずかしかったけど嬉しかったな」


そうだよな。あの時はまだ僕も春姫との距離感というか関係をどうしていいかわからなかったんだよな。


「それが、今は恋人って言える関係になったんだなと思うと何だか不思議な感じがして」

「確かにそう考えると不思議な感じだよね。まだ1か月も経ってないんだよね」

「・・・その・・・これからもよろしくね 大和」

「こちらこそ 春姫」


今年の夏は春姫と沢山思い出を作りたいな。

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