第29話 再戦③
期末テストの答案が返却された。
点数が高く喜ぶものもいれば、追試と補習のダブルパンチで暗い顔をして夏休みを迎えるものなど今日の教室は中々すごい状況になっていた。
「危ねぇ~後1問間違えてたら補習だった~」
「俺は可もなく不可もなくな感じかな」
藤沢も秦野も何とか補習は免れたみたいだな。
僕は・・・だいたい想定通りかな。
「鶴間はどうだった?」
「やめろ藤沢。鶴間の答案見たら自信無くすぞ!」
「酷いな秦野。僕だって満点ってわけじゃないぞ」
「満点じゃないって・・・じゃあ・・いや・・・聞かない方が良さそうだ」
「え?あぁまぁいいけど」
結構いい点数だったとは思うけど秦野が自信無くすほどなのか?
まぁ見せびらかすつもりもないから別にいいけど。
そんなテスト返却や終業式も終わり、学校はいよいよ夏休みに入る。
高校生活初の夏休みだ。
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迎えた夏休み初日。
今日は川野辺高校との親睦試合の日だ。
場所は倉北学園で僕たちの学校に川野辺高校の部員を招待して試合を行う。
「よう鶴間!」
「豪徳寺・・・」
「そんな固くなるなって同じ1年だろ?今日は負けないからな!」
「こっちこそ!」
この間、中華料理屋で短い時間だけど話が出来たせいか向こうもだいぶ砕けた感じで話しかけてきてくれた。
前は偉そうなやつと思ってたけど、話してみると意外といい奴なんだよね。
そして、両校の生徒が集まり前回と同様に合同で軽くアップや柔軟を行った後、部長達から今日の予定を聞かされた。
「よ~し、じゃ前回同様に1セットマッチで1年から順次練習試合を行う。組み合わせは事前に決めておいたから名前を呼ばれたものからコートに入ってくれ」
「「はい!」」
「じゃ まずは倉北の秦野、川野辺の有坂。コートに入ってくれ」
川野辺高校の二階堂部長に呼ばれコートに入る秦野と有坂。
審判は阿部部長だ。
そして隣のコートでも藤沢と川野辺の試合が藤崎先輩審判で開始された。
「今日は負けないからな!」
「そう言われても僕だって彼女が応援に来てくれてるんだから負けられないって」
コートの外では山下さんが有坂に声援を送っている。
本当仲良いなこの2人。
でも有坂。あんまりイチャつくなよ。秦野が羨ましそうな顔で見てるぞ。
そんなやり取りを終え試合が開始された。
秦野も有坂も前回の試合から数か月を経ていることもあり全体的にレベルアップしているようだ。
特に有坂は前回よりも打球も早くなってるし動きもよくなってると思う。秦野も負けてはいないんだけど・・・・今段階では有坂の方がわずかに上かな。
「くそっ・・・」
「結構ヤバかったな」
1ゲーム目は取ったもののその後のゲームを連取され最終的に有坂の勝ち。
でも見てる限り前回ほどのレベル差は感じなかったし、今のペースで成長したら次の試合は秦野が勝つかもしれない。僕も負けてられないな。
藤沢の方の試合も接戦だったけどこっちは何とか藤沢の勝利。
ただ、前回勝った町田が敗退し今のところ勝ったのは藤沢と大野の2人だけ。
そして・・・いよいよ1年生最後の組の試合。僕と豪徳寺の試合となった。
僕が勝っても負け越しに変わりはないけど指導してくれた先輩達や練習に付き合ってくれた春姫の為にも絶対勝ちたい。
「鶴間。今日は勝たせてもらうぜ」
「・・・僕も本調子の豪徳寺に勝つために練習してきたんだ。負けないよ」
「そう来なくっちゃな」
練習は沢山してきたんだ。自信があるかと言われると微妙なところだけど絶対に勝つんだ。
と僕が気合を入れているとテニスコートの外から僕を応援する声が
「大和~頑張って!!」
「大和君頑張ってくださいねぇ~」
春姫と和泉さんだ。応援に来てくれたんだ。
って2人共川野辺高校の生徒だろ?立場的に豪徳寺を応援しなくていいのか?
「くっ。栗平と付き合ってるのは知っていたが和泉さんまで鶴間を!!今日は絶対負けないからな!!」
2人共・・・豪徳寺のやつ何だか余計に気合が入っちゃったみたいなんだけど・・・
ん?でも豪徳寺ってなんで和泉さんの事知ってるんだ?クラスが同じとかか?
などと考え事をしている間に試合は開始。
「はっ」
「くっ前回とスピードが全然違う」
豪徳寺の本気のサーブ。
前回は普通に狙いをつけて打ち返せたけど今回は・・・
「返すので精一杯だよ!」
って今返せた?
かなりギリギリだったけど僕の返したボールは豪徳寺のコートのライン際ギリギリをかすめてポイントを取った。
「ラブ-フィフティーン」
返した僕も驚いたけど返された豪徳寺も驚いているようだ。
「流石だな鶴間。楽しませてくれるじゃないか・・・」
「ははは・・・」
その後、豪徳寺の猛攻に何とか耐えつつゲームは続いた。
技術もスピードも全体的に見ると豪徳寺の方が上だけど、僕は小久保先輩に言われた通り豪徳寺の"隙"をつくことで何とかくらいついていた。
小久保先輩との練習の後、僕は先輩に豪徳寺の試合の映像を借りて色々と彼を研究した。こういうのって結構得意なんだよね。
そして1つ付け入る隙を見つけた。
ラリーだ。豪徳寺は打球に威力があることもあり試合もサービスやリターンで決めてしまうことが多く相手とラリーをすることが少なかった。
別にラリーが下手というわけではないけど、長引くと集中力が途切れるのかほとんどの場合ポイントを取られていることが確認できた。
だからこの試合でも僕は豪徳寺の打球に追いつき形はどうあれただひたすらに返すことに注力した。
そして、豪徳寺の集中力が落ちてきたところでポイントをゲットした。
まぁ正直返すだけでも精いっぱいだからラリーを続けるのは体力的にもかなりきつい結構捨て身の作戦なんだけどね。
「はぁはぁ・・・しつこいな!」
「はっ」
少し気が乱れた豪徳寺の逆を突く形でスマッシュを打つ。
「ゲーム」
これで何とか2ゲームゲット。
でも・・・そろそろ体力がきつい。
1ゲームは取られているから、まだ3ゲームしかしてないんだけど・・・結構な打ち合いをしている。やっぱりこのやり方は無理があったかな・・・
ただ、それは豪徳寺の方も同じようで、かなり疲れが見えてきてる。
と、阿部部長と二階堂部長が何やら話を始めた。
そして、
「2人共疲労がきつそうだからこの試合はここまでとする」
「なっ。二階堂部長。まだ大丈夫です。やれます!」
「無理すんな豪徳寺。今日はあくまでも親睦試合だ。無理して怪我でもされたら今後に響く。鶴間君もいいかな?」
「え・・・その」
豪徳寺は何やら納得がいかないような顔をしてる・・・僕も続けたい気持ちはあるけど・・・
と阿部部長が会話に入ってきた。
「2人とも落ち着けって。2人を心配しての措置だ。今日は残念だったけど夏休みの後半にもう1回練習試合を組むからそこで白黒はっきりつけられればいいだろ?それまでにもっと体力つけとけ」
「・・・わかりました。そういうことなら。豪徳寺。再戦楽しみにしてるよ」
「ふん。次こそ俺が勝たせてもらうさ!」
正直僕の方が救われたのかもしれない。
あのまま試合をしていたら次のゲームが限界だったかも。
出来れば豪徳寺に勝って気持ち良く夏休みに入りたかったけど・・・
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