第20話 逢瀬 -栗平春姫②-

「え〜と この店に入るの?」

「うん。可愛くておしゃれなお店でしょ!」

「・・・僕には可愛すぎるというかちょっとハードルが高いお店かも」


カフェとは聞いていたし女性が好きそうなお店なのかなとは思ってたけど僕みたいなのが入っていいのか躊躇してしまいそうなおしゃれカフェ。

そして客の大半が女性。それも意識高そうなおしゃれな感じの人達。

春姫は違和感無さそうだけど僕は・・・雰囲気的に遠慮したいなぁ〜


「もう!ここまで来たんだから行くわよ!」

「え、ちょ ちょっと春姫・・・」


やっぱり今更遠慮するという選択肢は無いみたいで、僕は春姫に手を引かれお店に入ることになった。

案内されたのは奥まったところに作られたソファ席。

ゆったりとした2人掛けのソファにOld調に塗装された板張りのテーブル。

おしゃれだけど、このソファって並んで座るんだよな。

普通にソファに座る春姫を見ながら、僕もその横に腰掛ける。

中々座り心地のよいソファだけど春姫との距離が近い・・・


「な 何だか緊張するな」

「カフェなら前にも一緒に行ったことあるじゃない」

「あったけどあれって船橋さんとか有坂とかみんなでだろ?それにほとんどはファーストフード系だったじゃん。ここの店は雰囲気もだいぶ違うし・・・・それに今日は春姫と2人きりだし・・・」

「え、あ、た確かに・・・・2人きりだ・・・よね・・・」


何だよ急に焦りだして・・・ってもしかして春姫は2人きりとかあんまり意識してなかった?

いやでも僕と行きたいって誘ってきたの春姫だよね・・・勢いだけで声掛けてきたのかな(春姫ならあり得る話だけど・・・)

やばいな春姫まで照れだしたら余計に僕も意識しちゃうよ。


入ってきた時の元気は何処えやらという感じで春姫もうつむき加減で何だかモジモジしてる・・・

『『気まずい!』』

と思っているとその雰囲気を壊すかのような絶妙なタイミングで店員さんが注文を取りに来てくれた。


「ご注文はお決まりでしょうか?

 本日カップルでいらっしゃった方にはカップル限定パフェをお勧めしておりますが如何でしょうか?」

「カ、カップルって私達?・・・・うん。あ あのそれお願いします」

「え。春姫・・・カップルって、それ頼むの」

「・・・駄目・・・かな」


耳まで真っ赤にしながらうるんだ瞳で僕を見つめる春姫。

うぅ~反則だろそれ・・・・・そんな顔されたら断れないって・・・


「・・・・いいよ」

「は〜い。ご注文賜りました。カップル限定パフェですね。しばらくお待ちくださいませ」


何やら凄いものを頼んでしまった気はするけど・・・はたから見ると僕たちはカップルに見えるんだろうな。

などと考えていると春姫が少し緊張した口調で僕に話しかけてきた。


「大和・・・大和はやっぱり私とこういうところに来るのは嫌?」

「え?なんで?」

「・・・勉強教えてくれたり、テニスチームに入ってくれたりはしたけど、私は今まで大和に酷いことして嫌われてたし、今日も2人きりってこと気にしてたみたいだから・・・」


「酷いこと・・・そのことはちゃんと謝ってくれたし反省もしているみたいだからもういいよ。

 でも・・・正直なところ僕も春姫との接し方は良くわからないんだ。幼馴染の友人としては今まで通りに付き合えてると思うけど・・・その・・・春姫の気持ちも理解してるつもりだよ・・・だけどそれ以上の関係にすぐなれるものなのかは・・・どうしても色々と思い出しちゃって」


「やっぱり・・・そう・・・だよね。

 でも・・・私の事を嫌いになったわけじゃないんだよね?」

「ああ・・・そう・・・だね。別に嫌ではないと思う」

「そっか・・・うん。嫌われてるわけじゃないなら私は大丈夫だよ。

 大和に嫌われてないなら・・・さ。

 でも今日だけでもいいから私のわがままきいてくれないかな」

「春姫・・・わかったよ」


春姫の気持ち・・・僕がはっきりしなきゃいけないんだろうけどな


「お待たせしました! カップルパフェです」


相変わらずこの店員さんはいいタイミングで来るな(会話聞いてるんじゃないだろうか・・・)


「で でかいね・・・」

「う うん」


テーブルに置かれたカップルパフェは通常のパフェの4,5倍はありそうな巨大サイズ。美味しそうではあるけど2人で食べきれるか疑問に思うほどのボリュームだ。


「今日は夕飯いらないかもね」

「そうかも」

「あ、よろしければ記念写真撮りますか?」


と2人でパフェを眺めていると店員さんが思いもよらぬ言葉を投げかけてきた。


「記念写真?」

「はい サービスでパフェと一緒に撮らせていただいてます」

「・・・お お願いします。いいよね大和」

「えっ ああ」

「は~い じゃ撮りますね。あ、2人共表情硬いですよ。笑って笑って!」

「撮りま~す」 

[カシャ]

「それではごゆっくり」


店員さんが居なくなると春姫が早速パフェを食べはじめた。


「うん!美味しい!これなら結構食べれるかも」


と僕も食べるためスプーンを取ろうとしたところ、春姫が"自分のスプーン"でパフェすくい僕の口元へ


「あ~ん」

「え?春姫?」

「きょ 今日は私に私のわがままに付き合ってくれるんでしょ?」

「そうは言ったけど・・・それって春姫が使った・・・」

「あ~ん・・・・・・・・・や・ま・と・く・ん」


何だか食べないと許してくれなさそう。

僕は意を決して春姫のスプーンからパフェを食べた。

笑顔になる春姫。やっぱり可愛いな。


その後何とかパフェは完食したけど、しばらく甘いものはいいかな。

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