第19話 逢瀬 -栗平春姫①-
とある天気のいい土曜の昼下がり。
「大和!お待たせ。待った?」
「いや、僕もまだ着いたばかりだよ」
「良かった♪じゃ行こっか!」
川北町バスターミナル。
今日は春姫が所属している渋川さん主催のテニスチームを見学に行く・・・というよりは僕も練習に参加させてもらうため待ち合わせをしていた。
ちなみにバスターミナルで待ち合わせはしたけどバスに乗るわけではない。
渋川さんのテニスクラブがこの近所なんだ。
「練習ってこの間のコートでやってるんだよね。何人くらい来てるんだ?」
「うん。場所はあそこだよ。チームに所属している人は10人位いるらしいんだけど普段来てるのは4,5人位かな。私もまだ全員にはご挨拶できてないんだ」
「そうなんだ。みんな上手いんだろうしちょっと緊張するな」
「大丈夫だよ。大和は本気出せば上手いんだしサーブも結構スピードあるよ」
「・・・春姫にテニスの事で褒めて貰えるって何だか不思議な感じだな」
「ご ごめん・・・なさい。今まで酷いこと言ってたよね」
「あっ!そんなつもりで言ったわけじゃないから謝んないでよ。純粋に褒められて嬉しかっただけだからさ」
「そ そうなんだ。嬉しいんだ・・・私に褒められて・・・ふふ」
などと話しながら5分くらい歩くとテニスクラブに到着。
そして、受付で手続きをしてコートに入ると目的のコートで練習をしている1組の男女が居た。
「渋川先輩、結城先輩、今日もよろしくお願いしま~す」
春姫が元気よく練習中の2人に挨拶をした。
すると、2人は練習を中断し僕たちの方に歩いてきてくれた。
「いらっしゃい栗平さん。今日もよろしくね」
「あ、あの僕は・・・」
「鶴間君よね。この間、会ったけどちゃんとお話しするのは初めてね。
川野辺高校2年の渋川 麻友よ。一応このチームの主催者です。よろしくね」
この間は春姫の事であんまり見てなかったけど、なんていうか凄い綺麗な人だな。
それに春姫の話じゃテニスも県大会クラスの腕前で学校の成績も進学校の川野辺高校で上位らしいし、テニスクラブオーナーの娘さんって・・・
「ん?どうかしましたか?」
「い いえなんでもないです。こちらこそ僕なんかを誘ってもらって」
そうだよ。なんで僕なんかを。川野辺には有坂も豪徳寺も居るのに。
「謙遜することは無いと思うぞ。この間の親睦試合は俺も見てたけどうちのエースに勝ったじゃないか。
あ、悪い順序が逆になったな。俺は結城 隆。麻友と同じく川野辺高校の2年だ。よろしくな」
「は はい。よろしくお願いします。結城さんの事は有坂から聞いてます。次期部長候補で凄く上手い先輩が居るって。
それから豪徳寺君は本調子じゃなかったみたいだし・・・」
そう。有坂がやたらこの人のことを褒めてたんだよな。憧れの先輩とか言ってたし。本調子の豪徳寺も結城先輩にはストレート負けしたって言ってたもんな。
「そうか。そういえば有坂の友達なんだよな。まぁ試合については君の言う通りだ。豪徳寺も練習不足だったし君の事を舐めてたみたいだしな。
でも、だからと言って勝つのは簡単じゃない。それに阿部さんと藤崎さんが君の事を随分気に入ってるみたいだからな。俺もちょっと気になってたんだ」
阿部さんと藤崎さんってうちの部長達?なんで結城さんが?
「先輩達をご存じなんですか?」
「ご存知って、あの2人高校テニスのダブルスじゃ有名人だぞ。
それに2人は川北テニス部の先輩でもあるんだ。今でも尊敬してるよ」
・・・あの2人ってそんなに凄い人なの?とてもそうは見えないけど。
「ま、後もう一つ、うちの可愛い後輩が寂しがらないようにとも思ってな」
「な!ゆ 結城先輩! にゃ にゃにを言ってるんですか。私はそ そんな事!!」
「誰も栗平の事とは言ってないだろ~ なぁ麻友」
「そうですね~ 栗平さんには心当たりでもあるんでしょうか」
「せ先輩達いじわるです・・・」
そうか・・・春姫の事を心配して。
良い先輩を持ったな。
「評価いただきありがとうございます。若輩者ですが頑張りますのでよろしくお願いします」
「はは よろしくな。でもここは学校じゃないんだから敬語とか気にせず楽にして構わないからな」
「は はい!」
この後僕は結城さんや渋川さんに試合形式で練習をしてもらった。
お2人共もやっぱり上手くて、僕は当然の如くボロ負けだった。
でも凄くいい経験になったと思う。
とりあえず、入会は認めてもらえたみたいなので、今後は春姫とタイミングを合わせて練習に参加させてもらうことになった。
「春姫。今日はありがとな。凄くいい経験になったよ」
「わ わたしは渋川先輩に大和も誘ったらって言われただけだし・・・」
「それでもだよ。ありがとな」
「え うん・・・どういたしまして・・・
と ところでさ・・・その大和ってこの後予定ある?」
「え?特に無いよ。家帰ってゲームでもしようかなって思って位だし」
「相変わらずインドアね。。。
じゃあ あのさ・・・嫌じゃなかったらだけど・・・隣町のショッピングモールに新しいカフェが出来たらしいんだけど一緒に行かない?」
「僕と?船橋さんや下北さんとかとじゃなくていいの?」
「あの2人とはいつでも行けるから・・・・その・・・大和と行きたいの」
何だ春姫のやつ恥ずかしそうにして。
でも以前の春姫だったら僕の都合なんか聞かずに連れていってたよな。ちゃんと都合聞いてくるってだけでも何だか嬉しいな。
「暇だし僕と行きたいなら付き合うよ」
「本当!じゃ じゃあそこのバス停からショッピングモールに行くバスがあるから」
「了解。ってあのバス?」
「あ、そう!あのバス!走るわよ大和!」
「って待ってよ!!」
何とかバスに間に合った僕たちは、座席に座り今から行くカフェの話や最近の学校での出来事などの話をして盛り上がった。
何だか春姫も楽しんでるみたいだし嬉しそうにも見える。
僕と出掛けられるのがそんなに嬉しかったんだろうか?
でも、確かにこうやって2人きりでどこかに出かけるってのも久しぶりかもな。
ん?春姫と2人きりでカフェ?
・・・・もしかしてこれってデート?
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