第16話 謝罪

翌土曜日。

僕と春姫は川北中近くにあるテニスクラブに来ていた。

有坂が部長と話をした結果、ここで当事者2人含め春姫と話をすることになったんだ。

ちなみに本来僕は部外者なんだけど春姫が不安そうにしていたので、有坂に頼んで同席させてもらえるよう頼み込んでもらった。


「春姫は来た事あるのかここ?」

「うん。ここって会員じゃなくても裏手にあるコートは予約すれば自由に使えるから部活の後とかにきて練習に使ってたんだ」

「そっか。春姫ってテニスに関してだけは結構練習頑張ってたもんな」

「だけって何よ、だけって」


なとど話をしているとクラブハウスの方から有坂が歩いてきた。


「よう!大和、栗平」

「やぁ有坂 昨日は手間かけたな」

「あ あの有坂・・・・色々ありがとう」

「気にするなよ。みんな待ってるから行こうぜ」


と有坂にクラブハウス内の一室に案内された。

中には春姫に嫌がらせをしていたと思われる2人と上級生っぽい女性が2人、それに何故か船橋さんが居た。


「栗平さん・・・その色々嫌がらせしてごめんなさい。私たち渋川先輩に憧れて部に入ったから先輩に直接指導を受けてる栗平さんが羨ましかったんです。

 でも先輩に聞きました。栗平さんは部活の後もこのクラブに来て一人で遅くまで練習してたって。自分はそういったところも評価して教えてたって。

 陰で頑張ってたんだなと思うと何だか自分が恥ずかしくなりました」

「本当にごめんなさい。私たちが捨ててしまったキーホルダー。あの後探したけどやっぱり見つからなくて。。。

 栗平さんがあんなに大切にしているものだなんて思わなかったの・・・・本当にごめんなさい」


反省はしてるみたいだけど、大切にしていたからとかじゃなくて、そもそも人の物を盗んで捨てるって行為そのものが問題だろ。。。


「・・・もういいよ。見つからないものは仕方がないし」

「でも大切なものだったんだよね・・・・ごめんなさい」


「・・・大和。確かあのキーホルダーって昔お前が栗平にプレゼントしたやつだろ?」

「ああ小学校の時に夏祭りでな。春姫が欲しそうにしてたから僕がプレゼントしたんだ。思い出の品で春姫も大切にしてくれてたみたいだけど、春姫が許すって言ってるんだしそれでいいんじゃないかな?

 春姫には何か僕がプレゼントを贈るよ。」


僕がそういうと春姫が小さな声で囁いた。

「・・・ありがとね大和」


「ということだ。江田と梶ケ谷はちゃんと反省しろよ」

「うん・・・・栗平さん。本当にごめんなさい」


有坂がまとめると2人とも泣きそうな顔して、再度春姫に謝罪をした。

こうやって対面で謝罪するのって勇気いるし、憧れてた先輩にも叱られたんだからちゃんと反省もしただろう。

と、会話が終わるのを待っていたのかショートカットの上級生が話しかけてきた。


「栗平さん。私も良く話を聞かず責める様なことをしてすみませんでした。部長として恥ずかしい行いだったわ」

「三田部長は悪くないです。あの場を見れば私が加害者に見えても仕方がなかったですし気にしないでください」

「しかし・・・・」

「部長さん。春姫が気にしないでって言ってるんだからいいんじゃないですか?逆にあんまりしつこいとかえって春姫も気にしてしまいます」

「・・・・そうだな。悪かったわね栗平さん」


僕が言うと渋々ながらもう納得してくれた。

と春姫は奥に居た船橋さんに声を掛けた。


「千歳。私の事かばってくれたんだよね。ありがとう。

 それから・・・今まで嫌な思いさせてごめんなさい」

「・・・私は友達として当然の事を言っただけよ。春姫は私や佐和の友達でしょ?違うの?」

「違わない・・・・本当にありがとう」


少し春姫の声が震えてる。良かったな仲直り出来て。

春姫も素直になってちゃんと相手と向かい合えば、今まで見たいな上辺の友達だけじゃなくて船橋さんや下北さんみたいな友達だって出来るはずだ。


「そ そうだ、じゃあ退部は取り消して部に残ってくれるんだよね?」


と三田部長。

そういえば部活辞めるって宣言してたんだな。

どうするんだろう春姫は。


「・・・・いえ。考えましたが部はやっぱり辞めようかと思います」

「なんで!許してくれたなら辞める理由ももうないよね?」

「あの時・・・1年生のほとんどの人は私が嫌がらせを受けてたことは知ってたはずなのに誰も声を上げてくれなかった。その時にあらためて思ったんです。私はここにいる千歳や有坂。それに江田さんや梶ケ谷さんはじめ他の部員にも色々と横柄な態度で嫌な思いさせてたんだなって。

 だから、私がこのまま部活を続けても嫌な思いをする人もいるだろうし部は辞めようかと思ったんです」

「そんな。ちゃんと謝ればみんなだって許してくれるって」

「うん。そうかもしれないけど私なりのケジメかな」


とそれまで黙っていたもう一人の上級生(この人が渋川先輩?)が春姫に話しかけた。


「栗平さん。あなたテニスが嫌いになったわけじゃないんでしょ?」

「はい。テニスは好きです。出来れば続けたいとは思います」

「じゃここのテニスクラブに入りなさい」

「え?テニスクラブに?」

「そう。ここのテニスクラブは選抜チームを組んで社会人テニスの大会に出たりもしてるの。私も所属してるんだけどレベルは結構高いわ。栗平さんなら活躍できると思うんだけどどう?」

「いいんですか?私みたいなのが入って」

「見どころが無い子は誘わないわよ。自信を持ちなさい。どう入る?」

「・・・・テニスが続けられるなら!よろしくお願いします」


よかったな春姫。これでテニス続けられるな。

学校とは全く違う年代もバラバラな人達と交流する新しい環境だ。

春姫も変に気負わず素で挑戦できるんじゃないかな。


「ところで。私がここで練習してたのってなんでバレたんですか?」

「ああ、ここ私の家が経営しているクラブなの。だから私や結城君も部活の無い日とか練習してるのよ。

 それで栗平さんが裏のコートで練習してるのも何度か見たの」

「え~と じゃぁ先輩はオーナーの娘さん。。。」


軽く言ってるけど渋川さんの家ってすごいお金持ちなんじゃ。

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